「そ、そんな…。
しかし…しかし…この気は確かに、王妃に相応しい気であると…」


ぶつぶつ呟くとばっと顔を上げて俺の両手を握った。


「この国は同性との婚姻に厳しくありません!
今までにも、正妃としてではなくとも側室として向かえた王も何人かいらっしゃいます!
同性の正妃は今回が異例となりますが、どうか我が国の王妃に…!」

「黙らっしゃい!!!!」


俺は腹の底から怒鳴って美人の顎にアッパーを繰り出した。
綺麗に弧を描く顎を見届けるとふっと笑って踵を返す。


「お゙…お゙まぢぐだざい゙…」


顎を押えて呻き立ち上がるリュスを振り返る。


「なんだ」

「ど、どごに行くおづもりで…?」

「学校に来まっている」


たっぷりレースのついたドレスを両手で、それこそどこかの王女のようにたくし上げながら不敵に笑った。


「俺は男と結婚なんざごめんだ。どんなに裕福な生活が待っていようとな!!」


ふっはっはっはっと高笑いをして俺はリュスに背を向けた。


「どうやってお帰りになるのですか?」


は…と笑いが止まる。
今度はリュスがしてやったりと口角を上げた。


「帰り方、わかりませんよね?」

「教えろ」


御冗談を!と笑うリュスの脚を俺は思い切り薙ぎ払った。


「うごぉ?!」


驚いた声を上げながら倒れるリュス。


「足払いは昔から得意でな」


パンプスで倒れた美人の背中を踏む。
傍から見たら違う意味の女王に見えるかもしれない。


「さあ、教えてもらおうか」

「い、嫌です」

「自分の立場をわきまえようか?」


ぐりぐりと足に力を込める。ヒールじゃないしまあ良いだろう。
言っておくが俺はSじゃない。Mでもないけどな?ノーマルだノーマル。


「このままだとお前の顔踏むぞ」

「そ、そんなこと言われてもお帰りになれないんですよぉ!!」

「…どういうことだ?」

「あ、貴女の世界からこちらへの訪問は幾分か簡単に出来ますが、こちらの世界から貴女の世界に訪問出来るのは年に1回だけ、で…」

「…は?」

「ので…あの、あと1年しないとお帰りできない…と申します、か…」

「冗談もほどほどに…」

「この状況で冗談なんか言いませんって!!」


俺は真っ青になった。

1年もこっちで待たないといけないのか?!
が、学校…職はどうすんだ!?きょ、教頭が…っ!!!!
余りの衝撃にふらっと後ろに後ずさると何故かそこに丁度良く張り出ていた枝に後頭部をしたたか打って、リュスの焦った声を聞きながら俺の意識はブラックアウトした。



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