「ちょっと待っててね、着替えて来るから!」とジュエさんに言われてどれくらい時間が経っただろうか。
そんなに時間は経っていないが、部屋を出る際に見えたジュエさんのあの楽しそうな表情が気になって仕方が無かった。
それは愛しい人が楽しそうにしているというだけで感じる喜びと、そして――今までの経験からの一握りの嫌な予感。
あの楽しくて鼻歌でも歌ってしまいそうとばかりの笑顔をジュエさんが浮かべている時は、余り…宜しくない事がこちらの身に降りかかる。勿論内容は、その…気持ちが良くて頭の中がぐしゃぐしゃになってしまう様な物である訳で…。

着替えるという事は何か新しく注文していた服でもあったのだろうか。
ジュエさんは好きな物やこだわりのある物にはお金を掛けるが、服には余りこだわりが無いようで、この町に引っ越してからという物、売っている服を適当に身に着けている。
勿論いくら服が以前身に着けていた物の半分以下の値段と言う安い物だろうとジュエさんが着れば、ワンランクもツーランクも上の服に見えるのだから不思議なのだが…。
そんな服に余りこだわりの無いジュエさんが服をわざわざオーダーするというのは珍しい。

――あ、もしかしたら今から何か汚れる作業でもするから、その為に汚れても良い服に着替えて来るとか…?

と、他の案も考えたがそれは何だか違う気がする。
ジュエさんはトマト料理だろうが何だろうが服に付いたら汚れが取れにくい食材を扱う時でも平気でエプロンをしないで料理をする。
注意をすれば二言目には「まぁ汚れが取れなかったら捨てれば良いじゃない、新しいの買うから」と爽やかに言い放つのだから、汚れても良い服に着替えているという線は限りなく低い気がした。

そう言えば今日自分が身に着けているのも新しい服だったなと目線を下して服をまじまじと見つめる。
柔らかい黒の布靴に黒の半ズボンと同色のサスペンダー。それの下には白いシャツを身に着け黒のリボンタイという姿だ。
余り気にしていなかったが、今まで着せてもらっていた服から考えると余り着ない服の形と色合いかも知れない。ジュエさんはいつも服のどこかしらに暖かい色を混ぜてくれるから、モノクロだけというのは珍しい。
何をするつもりなのだろうかという疑問に後押しをされ、とうとう部屋を出てジュエさんの所へ向かう事にした。





「ジュエさーん、ジュエさーん?」


部屋を一つ一つ覗き込んでは小さく名前を呼ぶ。
と言っても部屋の数は少ないのですぐ彼は見つかった。


「ジュエ………さ、ん?」


台所でいそいそと動いていた彼を見て思わず目を見開く。


「あっ、ゴルジュ来ちゃったの?」


ダメじゃないと言いながら、ふふふと抑えきれない笑いを口から零してジュエさんが振り返る。


「じゅ、ジュエさん…あの、その恰好は…?」

「うふふ、似合う?」


ジュエさんが身に纏っていたのは首が詰めてある筒状の衿に、膝下まである長い裾の真っ黒なローブ。
その下のズボンも真っ黒で、衿と袖からちらりと少しだけ覗くシャツの白さが全体の黒さを強調しているようだ。そしてその首には金色のネックレス。
服装だけでは無くジュエさんは髪型まで変えていた。
金色の髪を掻き上げオールバックにし、銀の細い縁眼鏡を付けている。
全体的にとても…そう、ストイックな雰囲気が漂う格好になっていた。


「に、似合いますけど…あのう…」


とっても似合っている。とっても。
いつもも格好いいのだが、更に格好いい。
もしかしてこれからもこの格好で過ごすつもりなのだろうか。
…それだととても困る。だって見ただけでどきどきするくらい格好いいし、何だか酷く落ち着かない。
ピシッと引き締まった感じの空気は何だか甘えられない感じで…き、キスとか自分から言い出せにくくなりそうだ。


「ねえねえゴルジュ、これ何か知ってる?」


金色のネックレスの先についている紋様を持ち上げて見せられるが、分からずに首を横に振る。


「これね、神様の印で…。ホラ、アレークせんせの所の。あの花輪を簡略化した物なんだけど…。
この服はアレーク先生とか同じような職業の人達が身につける正装」


その服の意味は分かったが、ジュエさんがその服を身に着けている理由が分からず、疑問で満ちた目でジュエさんを見る。
もしかしてアレーク先生の様な仕事を始めるという事なのだろうか。


「この服を着ている時にはね、神様の教えとかを町の人に教えたり――後は、悪魔祓いをしたり」

「悪魔祓い」

「そ。悪魔なんていないけど、奇妙な事があると人間直ぐに神様やら悪魔やらの所為にするからね。その不安を取り除いてあげるって訳」


にっこりとジュエさんは微笑むと俺を覗き込んだ。


「ね、Halloweenって知ってる?」

「は、はろうぃん?」


さっきから話がポンポン飛んで目が回りそうだが、とにかく分からない旨を伝える。


「由来はさておき、10/31…今日はね仮装をしてお菓子をもらいに行くんだよ」

「……仮装…」


はっとしてジュエさんを見上げた。
なんだか話しが見えて来た気がする。



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