「ジュエ…さん…？」

「ん？」

「んっ、その…塗り過ぎ、じゃ…ぁっ」


さっきから塗り込められていく軟膏の量が多いような気がする。
塗りながら解されていくそこは既にヒクついているのだが、その度に胎内で温められた軟膏がとろりと出て来てしまいそうな感覚がするのだ。


「ん、まぁ…ちょっとね」

「ちょ、ちょっとじゃ無いで…んぁあっ！」


もう黙って、と言わんばかりにナカの良い所を指でぐにりと揉み込まれた。
そこは誰も知らない。自分さえ知らなかった快楽のスイッチだ。
ジュエさんだけが知っていて、ジュエさんだけが押せるスイッチ。
指を抜き差ししながら、時にはぐっと折り曲げて。的確にそこを刺激されるともう何も考えられなくなる。

ここを弄られる蕩ける様な甘い快楽を自分は知ってしまった。
熱くて硬いジュエさんの物に擦られ、突き上げられる快楽を。


「ジュエさ…ひ、ぁ…っジュエ、さん…っ」

「ん…」


名前を呼びながら首を後ろに捩じれば、微笑んでキスをしてくれる。
細められた青い瞳がとろりと光っていて、その色に魅入ってしまった。


「もうイきそ？」


柔らかい声にこくこくと首を縦に振れば、後孔を弄る指と中心を扱き上げる手が早まる。


「ふぁっ！ぁ、あ！あぁうっ、やっ」

「いいよ、見ててあげるからイって…」

「やっ、やらっ！見ない、でぇ…!!」


翼を動かして抗議をするが、力が無いそれにあまり効果は無い。
頬や髪にキスをされながら、耳元で


「…あいしてる」


と、湿った吐息と共に吹き込まれた瞬間、悲鳴のような声を上げて白濁を自分の腹の上に撒き散らした。


はっ、はっと荒い息を吐きながら、余韻と達した後の虚脱感に身を任せる。
横向きで達したのに、勢いよく出たせいでべっとりと自分の腹部に精液がついている。
このままではシーツに垂れてしまう、と思っていると肩に手を置かれて仰向けにさせられた。
指が抜かれた後孔から、トロッと蕩けた軟膏が溢れるのが分かって、やっぱり塗り過ぎじゃないかと少しだけ眉を真ん中に寄せた。が、


「じゃあ、いただきます」

「…へ？」


この場にそぐわない単語に気の抜けた言葉が口から零れる。
熱を持った気怠い身体を叱咤し、首をもたげて何をしようとしているのか目に入れた瞬間、血の気が引くのが分かった。

自分の貧弱な薄い腹の上に散った白い精。
それにジュエさんが赤い唇を舌を覗かせながら近づけていた。


「だ、ダメぇ！」


ズッ、ジュルッ

制止の声を張り上げるのと同時に、品の無い啜る音が響いた。
こういう時、本当に自分に腕が無い事が悔やまれて堪らない。
己の薄い腹に顔を埋めて、吐き出したばかりの精を啜る綺麗な恋人を引き剥がすことも出来なければ、視界を遮る事も出来ない。

普通の液体とは違って粘性があるために啜りにくいのか、ジュルジュルという音の合間に、舌で絡め取る濡れた音も聞こえた。
どんな食事の時でも品や作法が良く、音を立てて何かを食べるなんて事をしない彼が、こんな品の無い音を立てて精を啜っているという事が、してはいけない事をさせているような気にさせる。
執拗に臍の窪みに舌を入れ、舐め回していたが、全て舐め取ったのか息を微かに吐くと、ジュエさんは満足そうに顔を上げた。
てらてらと濡れて光っている唇を指で拭う仕草がとてもいやらしい。


「ふふ、あぁ美味しかった」

「う…嘘吐きっ」

「酷いなぁ、嘘じゃないよ？本当に美味しかった――…」

「そっそうじゃなくて！…あ、アブノーマルな事はしないって…」


言ったじゃないですか、と消え入りそうな声で呟けば、楽しそうに笑いながらジュエさんが覆い被さって来た。


「アブノーマルじゃ無いじゃない」

「どこがですかぁ…っ」

「僕にとってはこれは普通」


ああ、こういうのをいけしゃあしゃあと言うんだろうな、と思ってジトリと見つめれば「こんな僕は嫌？」と言いながら抱きしめられる。


「…い、嫌な訳が無いじゃないですか」


ジュエさんならば、ジュエさんだから。
時折ジュエさんは平静を装って、こんな自分は嫌かと聞いてくる。
そんな時、細められた青い瞳の奥に怯える様な色が滲んでいるのを知っていた。
何を恐れているのか自分には分からない。
ジュエさんを拒むはずが無いのは分かり切っているのに、何をそんなに恐れているのだろう。

拒まれる事？
それとも――…拒んだ際に、ジュエさん自身が取るであろう行動？

良く分からないけれど、きっと自分は彼にされる事ならば何でも受け入れてしまうに違いない。
彼の傍にずっといられるのならば、

――この足を切り落としたって、良いと思ってるんですよ、ジュエさん。

でもそれだときっとジュエさんに今以上の迷惑を掛けてしまうだろうから、出来る事ならばしたくないけれど。