3+ 


「立つ…んですか」

「だってそうしないと足とか洗えないでしょ?いつもしてるじゃない、ほらほら」


そのいつもの7割方、味見をされるからこんなに警戒しているのだろう。
が、洗うだけという言葉が後押ししているのか、思ったよりもすんなりと立ち上がってくれた。
鼻歌でも歌い出したい気分で臍を過ぎ、薄い腹を洗う。
そして腰骨を過ぎ――太腿へ。
中心を弄られるだろうと思っていたのか、ゴルジュが少し驚いた表情を浮かべたのが見なくても分かる。
そして途端にゴルジュの身体から僅かに匂いっていた警戒が無くなり、こちらに体を委ねきるのを感じた。
顔を上げれば照れた様に微笑むゴルジュと目が合う。純粋に体を洗ってもらえるのが嬉しいのだろう。
膝裏を擦り、片足を上げてもらって足の裏から指の間まで丁寧に洗う。
擽ったさを抑えた笑い声が耳に心地良い。
両足とも洗い終えると済んだと思ったゴルジュが気持ち良さそうに頬を緩めながら「ありがとうございました」と言った。


「まーだ」

「え?」

「まだ洗い終わってないから、もう少しじっとしててね」

「あ、はい」


とろんとこちらを信用しきって頷いたのを胸の内で密かにほくそ笑みながら、ちろりと舌で唇を湿らせ焦らしに焦らした自分へのご褒美へと指を伸ばした。


「!」


急に中心を触られてゴルジュの身体がびくりと跳ねた。
スポンジから泡だけ取って手で直にそこを洗う。


「ちょ、ちょっと、何で…」

「え?洗ってるだけだけど?」

「だ、だったらスポンジで良いじゃないですか…!」

「ここは繊細な所だから手で洗った方が良いんだよー」


そんな御託を並べて手の中にある性器を泡塗れにする。
薄いが色が黒である為に濃く見えがちな陰毛にも泡を伸ばし、しょりしょりと指先で弄った。


「それにゴルジュは通常時、ちょっとだけ皮被ってるでしょ?念入りにしなきゃ…」


ね?と場違いな程爽やかな笑みを見せれば、ぱくぱくと口を開閉するゴルジュ。
漸くいつものペースに巻き込まれている事に気づき、もう言葉も出ないらしい。
それを見て微笑しつつ、そうっと皮をずらして先端部分を剥き出しにすると優しく洗い始めた。
自分のと違い、少し濃いめのピンク色の性器は本当に同じ物かと思うくらい綺麗だ。
色が白いからなのか、それとも『挿れる』という用途で使かった事が無いからか…勿論これから死ぬまでそんな用途で使う機会も無いだろう。だってゴルジュが他の人に挿れるなんて僕が許すわけが無いじゃないか。
指で支えながら本来の用途として使われる事が無いなんて可哀そうに、と見つめる。
本当に可哀そう、可哀そう、そして何て可愛くて愛しい。
大丈夫、僕がその分までちゃんと可愛がってあげるから。


「自分でやってる時とかちゃんと洗えてる?こことか、汚れ溜まりやすいんだよ…?」


そろっとカリの下を指でなぞると、小さく息を呑む音と共に手の中でピクンと性器が揺れた。
まるで別の小さな動物の様で更に愛しさが湧く。


「いつでも言ってね、僕が洗ってあげるから…毎日でも」


囁きながら顔を上げれば、目の縁を僅かに朱に染めたゴルジュがふるふると震えていた。
えっろい表情…堪んない。
洗うと言うよりも刺激するのがメインになりつつある手の中で芯が少しずつ入って来る中心。
その変化を感じながらうっとりと目を細めた。


「袋とかも、こうやって汚れを落とすように…。
ねぇ、やっぱりこうやって毎日一緒にお風呂入ろうよ。僕が洗ってあげる、ね?良いでしょ?」


ねぇ、と魂の契約を持ちかける悪魔の如く優しく、そして淫靡に囁く。
ゴルジュの紫水晶の一番濃い部分のような瞳が涙で潤みながらも僕を小さく睨んだ。


「ダメ、です」


ちっ、今回も失敗だったか。





「洗うだけって言ったのに…!」


ゴルジュが拗ねて浴槽の端で足を縮めてしまった。


「うん、洗っただけじゃない」

「なっ!あれは洗ったって言わない…っ」

「じゃあ何て言うのかなぁ」

「っ!」


途端に真っ赤になって口を水面につけてぶくぶくと泡立てるゴルジュ。
小さく睨みながら「いじわる」とくぐもった声で言われた。
もうこれ以上からかうと本当に怒ってしまいかねない。笑いながらすっと近寄ると「ごめんね」と耳元で囁いた。


「ごめんね、ちょっと苛めすぎた」

「うう、いつもじゃないですか…」

「ゴルジュが可愛いのがいけないんだよ」

「かっ、可愛くなんか無いです!」


かっとして上げたゴルジュの顔を見て目を見開くと、思わず噴き出した。


「な、何ですか」

「ふふ、泡が髭みたいになってるよ」

「!」


慌てるゴルジュの顔を挟むと目を細めながら指で拭ってやる。


「…何回も言ってるのに、これだけは認めてくれないんだね…」


だって一緒に入ると、イヴワールさんが…ともごもごと言っている彼。それを見て小さく笑い返した。
風呂の事ではない。
僕がどんなに見た目を褒めても、彼はいつも否定する。
「綺麗じゃない」「可愛くない」「美しくなんか、ない」と。
謙遜からの否定では無い。その言葉を喜び、照れるその目の奥にはいつも決定的にそれを認めていない。その言葉を素直に享受していないのだ。
異形である自分は醜く、悍ましいと言い聞かせ、言い聞かされてきた事で負った心の傷は深く、まだ癒えていない。いや、数年で癒える訳が無かった。

いつかその傷を癒す事が出来た時、彼は素直にこの褒め言葉を受け取ってくれるのだろう。
その日を必ず迎えさせてやるといつもの様に心に決め、彼の漆黒の髪に口づけた。



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