お昼を食べている間、ゴルジュは一口食べる度に美味しいと頬を緩めるのに対して僕はもうこの後の事で頭が一杯になっていた。
もう何年一緒にいるのだと苦笑を禁じ得ないが、それだけ彼に夢中なのだから仕方が無い。
早く食事が終わらないかと逸る気持ちを抑えて獲物を狙う猫の様な視線を笑顔で隠した。

サンドイッチを食べ終わるとゴルジュがそわそわと落ち着きが無くなる。
この先に待っている物が何なのか分かっているのだろう。
それを見てにやつく口の端をどうにか窘め…しかしもう隠す必要の無くなったねっとりとした視線を彼に向けて口を開いた。


「お風呂、入ろっか」




乾いて日の良い匂いのするタオルを二つ手に取ると、彼の背を押して浴室へと向かう。
彼の体の事を考慮して、この家には玄関のドアを除いてドアは二つしかない。後はドアを外した状態にしてある。
冬になれば暖房の為に外したドアを外に建ててある小さな倉庫から持って来て取り付けるのだが、今の季節は十分温かいので大丈夫だ。
その二つしかないドアの内の一つを開けて浴室へと入った。

パタンと音を立ててドアが閉まると、もぞもぞとゴルジュが自分の服を脱ぎ始める。


「待って」


その動きを止めると、にこやかに笑ってゴルジュのシャツの前に手を伸ばした。


「僕が脱がしてあげる」

「そ、んな…良いですよ、俺一人でも出来る――」

「やらせて、ね?」


言い聞かせるようにそう言うと、ゴルジュは頬を僅かに染めて困った様に微笑しながら頷く。
それを見届けて手の中のシャツのボタンをぷちり、ぷちりと外していった。
彼の服を脱がせるのが好きだ。プレゼントの包装を剥いでいくような静かな興奮を毎回覚える。
ボタンを下まで外すとそうっと隙間に手を差し入れて肌蹴させた。情欲を煽るには十分な白い肌がその下から現れる。
不健康だった身体が健康になっていくのに連れて質を増したのはこの肌だ。
しっとりと滑らかな白い肌。この肌に鬱血痕を刻む事が出来るのは自分だけ。
ズボンを下し、下着からも足を抜かさせる。
糸一本すら纏わない姿に自分の手ですると肩の先に小さく唇を落とした。

くすりと微かに笑いを零したゴルジュの唇にもそっと触れた後、自分の服を手早く脱いでいく。
ゴルジュの服を脱がす際はまるで自分を焦らすかのようにゆっくり1枚1枚剥いでいくのだが、自分の服はどうでも良い。正直ただの障害でしかない。
服を半ば引き剥がす様に脱ぐと、ゴルジュが苦笑しながら「ゆっくり脱げば良いのに」と言った。
だって1秒でも惜しいんだよ。

素朴な見た目の家からは想像できない程広い浴室は、生活を彩る為のちょっとした贅沢。
と言っても、そんな贅沢はこの家のあちらこちらに見られる訳だが…まぁ良いじゃないか。
前住んでいた贅沢の塊の様な屋敷に比べればこんな物、可愛い物だ。
設置してある浴槽はシンプルなデザインだが、大の大人の男2人が足を伸ばせるくらいのゆとりを持っている。ゴルジュが痩せているので狭い事は無い。
小さい浴槽に体を密着させながら入るというのも中々良かったかもしれないが、それでは理性が毎回持たないだろう。
自分は浴室ではゴルジュを襲わないと決めている。
というのも、実は一度襲ってゴルジュをのぼせ上らせた挙句、それが切っ掛けで風邪を引かせてしまった事があるのだ。
あの苦しそうなゴルジュの顔を再び見るのは嫌だし、それに長引いた風邪によってあんな長くお預けされるのはもうこりごりだ。

泡が立つ入浴剤を入れた湯船に二人で浸かる。ほぅっと息を吐く彼が可愛い。
一つ声を掛けてから自分の前にあるゴルジュの頭にお湯を掛けると、泡立てて洗い始める。
さらさらな髪が泡に包まれて柔らかく指に絡む。


「痒いとこ無い?」

「はい…」


くしゅくしゅと音を立てながら指で頭皮を揉むように動かす。
向かい側の少し離れた壁に設置してある鏡でゴルジュの表情を窺えば、うっとりと気持ち良さそうに目を細めているのが分かって嬉しくなった。
角の根本もしっかりと洗い、先程と同じように声を掛けて目を瞑らせると泡を流す。
最後にぺったりと張り付いてしまった前髪を掻き上げてやれば、出来上がり。


「ありがとうございます」


照れた様に礼を口にするゴルジュは以前と少し変わった。
前は面倒を見てもらう度に迷惑ではないかとおどおどと瞳を揺らし、謝罪をすぐ口にした。
勿論今でも自分の力でこなそうとはしているが、こちらに甘え頼る事を覚え、謝罪では無く感謝の言葉が聞けるようになったのが嬉しい。
ゴルジュが寛いでいる間にざっと自分の髪も洗ってしまう。
それを眺めていたゴルジュが「自分に手があったらイヴワールさんの髪を洗ってあげられるんですけど…」と少し寂しそうに呟いたのはいつの事だったか…。
洗い終えて髪を乱雑に掻き上げると、次は身体を洗うための柔らかいスポンジを手に取る。


「あ、体は自分で…」

「だーめ、僕がやるの」

「で、でも…」

「やらしてよ、ね?」


覗き込むと眉根を寄せて顔を赤らめて俯いている。
…下心ありな事が丸わかりなんだろうな。そりゃまぁ愛してやまない人の体を隅々まで洗うなんて、ここで襲わないと決めていたって少しくらい味見をしてみたくなると言うのが男じゃないか。


「ね、お願い。洗うだけだから」


洗うだけという言葉にゴルジュも渋々頷いてくれた。
ああ本当可愛くて…馬鹿なんだから。
何回騙されたらこの子は気づくんだろう。僕が言葉通りにするわけが無いのに。

滑らかな背中を泡をたっぷりと乗せたスポンジで擦る。
肩甲骨辺りについている翼は繊細なので余り擦らない。それに羽根の作りで水で洗い流すだけで汚れは取れるらしい。
確かに水を掛けると表面の部分は水を弾く。長く濡らせば内側の羽毛は濡れるのだが。
その羽毛が乾いてふわふわしている所に鼻を埋めるのが好きというのを彼は知っているだろうか。

背中を洗い終ってこっちを向く様に言う。
おずおずとだがこちらを向いたゴルジュの首を洗い、鎖骨、肩、脇、そして胸。
白く薄い胸をささやかに彩る濃いめのピンクの二つの飾りは特に念入りに。
泡をつけたスポンジでくるくると円を描く様に洗ってやれば、その刺激で触ってと言わんばかりにツンと尖る。
ああ触ってあげたいけど、また後でね。

余りしつこくするとゴルジュに怒られてしまうのでそこからは早々に引き上げる。
今怒られて洗わせてもらえなくなっては一番目当ての所に触れられなくなってしまう。
舌なめずりしたいのを抑え、何食わぬ顔で立つ様に指示をした。



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