――幕が上がる。真っ白な光が当てられる。
余りの白さに目が開けられない。
いつもそうだ。熱さえ感じる光を真っ向から浴びるから俺は客席が見えない。
――客席がざわめく。
一体どんな人がこれを見ているのだろうか。
男?女?老人?子供?
一人で来たのだろうか。それとも恋人と二人で?ああ、家族連れかもしれないな。
なんとかして客席を見れないかと目を見開くと、ざわめきが大きくなった。
――隣の人と会話する声、息を呑む音、嘲笑、侮蔑。
無駄な事かと俺は目を閉じた。
どんな人が此処に来ていようと、注がれる眼差しに俺を肯定する感情は込められない。
異形の者を面白く、もしくは興味深げに、もしかしたら見下す様に見つめる。
身動ぎすると首枷に繋がれた鎖が、がちゃり…と鳴った。
――俺は縋る当てもないのに今宵も顎を真っ直ぐ客席に向ける。
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