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「…うん、傷は大分塞がったみたいだけど…調子はどう?」


頭の包帯はつい先日取れた。翼の方はまだで、包帯を巻き直しながら調子を尋ねた。


「痛みは…まだあって無理に動かそうとすると辛いですけど、でも痛みも感じない頃に比べたら多分ずっとよくなってるし、痛み自体軽くなってきてると思います」

「そう、良かった…」


翼に負担をかけない様に横を向いて寝ているゴルジュはもぞもぞと動くと、申し訳なさそうに僕を見る。


「あ、あの…喉が渇いたので、少し水をもらえませんか…」

「ちょっと待ってね」


ベッドサイドに置いてある水差しを取り、銅製のコップに注いでいると身を起こす。


「…あの、つきっきりでして貰わなくても、その、水とか藁を突っ込んでおいてくれたら、俺一人で出来るから…」

「言ったでしょ、僕は好きでやってるの。放っておいて」

「っ…」


コップから顔を上げると、真っ赤になってゴルジュがこっちを見ていた。
…ああ、ダメじゃない。そんな顔で僕を見ちゃ…。
今まで色々と堪えてきた物が堰を切って溢れてきてしまい、コップを静かに置くと、ゴルジュの隣に横たわる。
体を離そうとするゴルジュの腰を掴み、体を引き寄せた。


「ねぇ、ゴルジュは聞こえてなかったかもしれないけどさ、元気になったら旅行に行こうね…」

「……」

「それで、気に入った場所があったらそこで暮らそうと思うんだ…二人で」

「…っ」

「嫌?行きたくない?…僕はね、何でも出来るよ。ゴルジュの為なら…」

「……お、俺なんかの…」


その言葉を遮るように、ゴルジュの頬を両手で挟んだ。


「『なんか』って何?僕はゴルジュに勝る存在を知らないよ。
この角も、翼も、目も、僕には醜くも恐ろしくも映らない…」


欠けた角に、瞼に、頬に唇を落とす。
唇が触れる度に震える彼が愛おしくて、愛おしくてどうかなってしまいそうだ。


「それに僕が好きなのは、見た目じゃないんだよ。
ゴルジュの優しさに、純粋さに、誰よりも温かい『人』の心を持っている君に、僕は惹かれる」


愛してるよ。と耳に吹き込んだ。
彼がその事を信じられないというなら一生を掛けて囁いて行こう。
自分が誰にも必要とされていない存在だと思っているのなら、必要としている存在がここにいる事を抱きしめて伝えよう。

きっと、僕はその為に生まれた。


「…ふ、…っ」


あの時の様に彼の頭を胸に抱きしめ、唇を額に押し付けると空気の抜けたような声が聴こえた。
わなわなと腕の中の肩が震える。


「ふ、うぁ…あぁっあああああああああっ…!!!」


ゴルジュの泣き声を聞きながら、僕は何度も愛していると囁いた。






泣き声も収まり、鼻をする音だけが時折聞こえる。
今まで触れる度に僅かに感じていた他人に接するような薄い壁を感じない。
すり…と微かに擦り付けられる額や鼻に甘えるような空気が混じっていた。


「…あ、水が飲みたいんだったよね」


身を起こし、注ぎっぱなしだったコップを手に取る。
ちらりとゴルジュに目を向けると、泣いた所為で目尻が朱に染まってしまっていた。
擦っていないせいか余り腫れておらず、濡れた睫を泣きつかれたのか重たげに瞬かせる姿はまるで情事の後のようで、色香を纏っている。

その様子に唾を飲み下す。
さっき堰を切った物の中には愛情の他に情欲も勿論あって、僕はコップを持ったまま身をかがめた。


「唇渇いてるね…」


指をコップの水で濡らし、ゴルジュの唇をなぞる。
ピクリと動くが拒む空気は無く、静かになされるがままにされている。
何度か往復した指を薄く開いた口の中に差し込む。
爪が僅かにカツンと固い歯に当たり、その奥の柔らかい舌に触れた。
その舌さえも撫でるように動かすと、こちらを困ったように見ながらもゴルジュが指の先をちろちろと舐めた。


「…っ!」


その動きに耐え切れず、コップを煽るとあの時のようにゴルジュに口づけた。
ただ、あの時以上に荒々しい口づけで、唇の端から水が溢れていく。
それを舐めとり、またコップを煽って口づける。
最初は少し抵抗していたゴルジュも最後は舌に遠慮がちに触れて来て、水を強請るようにちゅくちゅくと吸った。



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