13 


「ここは…?」


ゴルジュが不思議そうに掲げ上げられている看板を見上げた。
花輪の形を模した看板には文字も何も無く、一見花屋か何かにも見えるかもしれない。


「これはあの教会で見た神様の花輪を模してる。こういう看板が町の中に1つはあるんだよ。絶対」

「へぇ…」

「こういう看板を掲げる事が出来る人は博識で、町の人が頼るような人…まぁ、普通の時は医者だね」

「ど、どこか悪いんですか?」

「…ううん。ちょっと胃が荒れ気味だから薬もらうだけ」


医者といった瞬間に慌てて心配そうにこちらを見るゴルジュに笑みが零れた。
以前はおかしい、おかしいと思っていたこの気持ちも今ではもう慣れてしまって、自然に笑みが浮かぶ。
中に入ると、並べてある椅子の一つを指さしてそこに掛けて待ってる様に言う。
素直に頷いて座るゴルジュを見届けると奥の部屋に入った。


「…どうも、アレークせんせ」


髭に覆わせた男に挨拶をすると前に設置してある椅子に腰かける。


「おおジュエ。どうだ調子は」

「…別に。悪くも無ければ良くもないよ」


嘘だ。
本当は悪くなっている。
夜寝る時に感じる肺の違和感はそれの表れだろう。
しかし出される薬は苦しみを緩和してくれる作用がメインではあるが、飲むとだるくて仕方なくなるのだ。
これ以上強いのを出されては普通に生活するのが億劫になる。

――良く知っている。見てきたから。

触診も終わって、いつも通りの分量の薬を袋に詰める医者。


「本当か?他に違和感を感じるところは無いか?」

「違和感ねぇ…」


その袋を受け取りつつ遠くに視線を向けた。


「ああ…そういえば、最近…胸が」

「胸?お前のは肺だから―――」

「胸が、暖かい…」

「…は?」


顔なじみの医者がポカンとこちらを見るのが分かった。
間抜けな表情をしているであろうことがはっきり見なくても分かって笑える。


「何でなんだろうね。ちょっと前に手に入れた子なんだけど、見てると温かくなる。
もっと触りたくて、もっと喋りたくて、声が聴きたくて。笑った顔をみると僕も笑えてくる。でも、体の傷を見るとむしゃくしゃする。
これって何か訳わかんなくて苛々してたんだけど、最近はもうそんな事を感じなくて、ただ温かい…」


自然に漏れ出る笑みを茫然と医者が見て、肩をわし掴んできた。


「お、おまっお前そりゃ…!」


何度も乾いた喉を潤す様に唾を飲みこむ医者が面白い。
いや、これは俺が言うと厚かましいか…?!だけど…と目の前で百面相をすると、再度肩を掴んでくる。


「いっ、いいか…その気持ちと相手を大切にしろよ…!
お、俺からはこれ以上言えんが、感情とか心とか、特に相手を思いやる事をどっかに置き去りにしちまった様なお前からは考えられん程の進歩だからな?!
絶対大切にしろよ!?」

「結構失礼な事言ってるよね。それより、肩。痛い」


謝りながら慌てて肩を離す医者の前でわざとらしく肩を叩いて、彼が待つ部屋のドアの取っ手に手を掛けて…振り返る。


「あ、言っとくけど」

「…?」

「……僕、この気持ちが何か分かってない訳じゃないから。」

「なっ?!」

「じゃ、さよなら」


口をぱくぱくとさせる医者をドアで遮って


「待った?帰ろうか…」


椅子に座っていたゴルジュに微笑みを向けた。



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