黒い髪と同じ色の翼は背中から生え、白目の無い紫の目は光の中で異様に見えた。
烏の如きそれをローブを被って隠すと背中が異様に膨らんで、酷い猫背の様に見える。
隙間から覗く身体は骨が浮き出ていてまるで餓鬼の様だ。
そして頭の頂きには山羊の様な巻き角がある。
そのため【ガーゴイル】という名前であのサーカスにいたのだろう。

見た者の中にはまるで夢魔のようだという声もあった。
――上手い事を言う物だ。

確かにローブを被っている間はガーゴイルの様だと思わなくもない。
しかしローブを取り、光を浴びれば彼は不思議な魅力を放つ。
それは人を惹きつけておきながら、目を背けたくなるような……『背徳』の香りがした。

本当はこのサーカスにはただの見物に来ただけで、買い物をしに来たつもりは無かった。
コレクターとして名を馳せている自負はあるが、生き物は生憎守備範囲外だ。買ってもらいたいのなら剥製にして持ってきて欲しい。
何となくふらりと立ち寄ったサーカスと言う名の見世物小屋で、まさかあんな出会いがあるとは。

【ガーゴイル】と高らかに呼ばれ、引き摺られながら出て来て光を浴び、舞台の真ん中でポツンと寂しそうに佇む彼に目を奪われた。

ボロボロのローブを取り払われると更に客席がざわめく。
彼には両腕が無く、その腕の代わりかの様に烏のような翼があったからだ。

ステージに座り込んで、がりがりな上半身を晒し、彼は眩しそうに目を細める。
ふいに彼はこちらの客席を凝視するように目を見開いた。その瞬間、彼には白目が無いのだと気付く。
客席のざわめきが聴こえないほど、その紫の瞳に食い入った。

彼は諦めたように目を閉じ、細い顎を真っ直ぐ客席に向けた。

――それは何かに縋るか、許しを乞うているかのようにさえ見えた。

彼が色の薄い唇を開く。


――』


少年から青年への成長途中特有の高さを帯びた歌声が響いた。
意味のわからない言葉で不思議なリズムの唄を歌う彼は一層不思議な存在に見えた。
それは目の前の存在は人間なんかではないと客を勘違いさせるのに十分に思えた。が、気付く。
彼が細かく震えている事に。

――ああ、彼は人間だ。

それを見た瞬間、どうしても彼を自分の手元に置いておきたくなった。
それは彼が人間だと感じたと同時に目に入った体中に散らばる青あざ、不健康すぎる痩せ方、明らかに虐待と思える様々な傷跡を見て助けてやりたいと思った訳ではなく、心は人間なのに見た目は異形の姿をしている彼がただ純粋に欲しくなっただけだった。





森奥の人気のない館に連れて帰ると、広い玄関先で少し立ち止まった。
さてこの異形の少年をどうしようか。
別に馬車に乗せるのも屋敷の中に入れるのも抵抗などないが、汚れていることには変わりない。
広い館に使用人はいない。
愚かなまでに収集をする主に愛想をつかせた者もいたし、クビにした者もいる。
だから食事も掃除も一人でしていた。
と言っても自室と使う箇所だけだから、無駄なまでにある部屋の殆どは埃が積もっているだろう。

とりあえず彼を洗うか、と浴室へと向かった。

服を脱ぐように伝えて、腕まくりをすると暖かい湯を浴槽に張る。
使っている入浴剤の蓋を開けながらふと、彼は自分で服を脱げない事に気付く。
脱がしてやらねばと振り返ると、彼は脚と口で器用に服を脱いでいた。

脱ぐと彼の貧相さが際立つ。
青白いと言っていいほどの白い肌。浮き上がる肋骨、薄い胸、細い脚。
彼には裸になる事の羞恥心が無いのか、僕の前で直ぐに何一つ纏わぬ姿を晒した。
同性だというのに何となく見てはいけない気がして慌てて目を反らす。


「じゃあ、ここに入って」

「は、はい」


彼は頷くと入浴剤の泡立つ湯の中に脚を入れた。


「あ、温かい…?!」

「…何、君は温かい風呂に入った事無いの?」

「え、えっとオーナーの所では水だったし、孤児院では濡れタオルだけだったので…ご、ごめんなさい…」

「何で謝るの」

「えっ、あっ、ごめんな…あっ」

「…もう良いよ」


しょんぼりと項垂れてしまった彼の背中を泡立てたスポンジで擦る。
血管が透けて見える薄い背中は強く擦ったら破けてしまいそうだと思った。



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