あいつらはそれで納得したのか、それからと言う物喧嘩をいたる所で吹っかけられる。
別に負ける気はしないのだが、何人も相手をすると流石に怪我を負うのは防ぎきれず。
そうして、その怪我を見て真白は悲しむのだ。


「真白…」


絆創膏がいくつも貼られた指でそっと真白の頬を撫でる。
そっと目を閉じた真白の白い頬に短く切った髪がさらりと掛かって、儚げな感じに胸が締め付けられそうになった。


「まし、ろ…」

「ん…」


ふっと口角を上げた真白が、そっと俺の手を頬に押し付けるようにしながら包み込む。


「…ごめん」

「何で、真白が…」

「俺がこんな表情するから、シロは気にするんだろ?」


分かってるんだ。と真白は切なそうに目を細めた。


「シロが自分で決めたことだから。俺にも相談してくれたから。だから、俺は黙って待ってようって。
でも…」


真白の眦から透明な水が溢れて、頬を伝う。
怪我をして帰ってくるようになってから初めて見る涙に思わず息が止まりそうになる。


「シロが怪我して帰ってくるのを待つの辛いんだ。
お前、自分の背中とか見えないかもしれないけど、凄い青あざなんだよ。
毎日、毎日増える怪我が苦しくって、シロの部屋で待ちながら、ああ今日も怪我して帰ってくんのかなって思うと悲しくって。
俺、怪我の手当てしか出来なくて、もっと力になりたいのに…んぅっ」


真白を思い切り抱きしめて自分の胸に埋める。
ただただ嬉しくて、そして申し訳なくて。
切なさと愛おしさと、色々な感情がごちゃ混ぜになったものがまるで酸味のある甘さの様にじんわりと胸の内に広がっていく。


「真白、真白…っ」


真白といるとこんな気持ちになる。
そしてその伝えきれない思いが溢れると、俺は馬鹿みたいに真白の名前を呼び続ける事しか出来なくなるのだ。


「真白…」

「シロ、俺ね…」


胸に真白が顔を擦りつけてきた。


「シロはどうして俺を好きになってくれたんだろうって…だってあんな短時間だったんだぞ?
俺のどこを気に入ってくれたのかなって、毎回この部屋で待ってる時思うんだ…俺…シロの事、何も知らないから…」


ふと真白につられてソファーに座りながら自分の部屋を見回す。
この件が片がつくまで、真白は俺の部屋で帰りを毎日待ってくれていた。
家具もろくに置いてない、置いてある物でさえ飾り気のないただ広いだけの部屋。
住んでいる自分は感じないが、真白は酷く寂しい思いをしたのではないかと今更ながら気づいて、腕の力を込める。


「真白…俺の昔の事…知りたい?」


その言葉に真白が目を見開いて顔を上げてきた。
見つめる瞳がゆらゆらと揺らぎ、そして定まる。


「…しりたい…知りたい。
聞いちゃいけないって、急かしちゃいけないって思う。でも、俺、シロの事知りたい…全部、知りたいよ…」


俺が真白を受け入れたから真白が俺を受け入れてくれるなんて打算的な事はしたくない。
もし、真白が全てを聞いて、俺を拒む様だったら…。

想像するだけで血の気が引く思いがする。
手の先から冷たくなっている気がして手の平を強く握り込むと、その手を上からそっと包みこまれた。
その温もりに心が僅かに緩み、俺は口を開いた。



[3/5]
[*prev] [_] [next#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -