「は、首輪?」
「うん…」
どうすれば良いのか分からなくなった俺は、学校で泉に相談をしてみた。
泉が携帯から目をこっちに向けて、ジュースのストローから口を離す。
「首輪が欲しいって…何かペットでも買うのか?なら駅前のペットショップで…」
「…人間用のが欲しいんだけど」
その言葉に思わず泉がジュースを取り落しそうになった。
「…え。ササちゃんそんな趣味があったの………」
「違うし。俺が付けるわけじゃない」
「いやいや、相手に付けるのでも大分びっくりなカミングアウトだよ?!」
ササってSなの?女王様なの…?とかいう泉の頭を叩いてしぶしぶとシロの事を口にする。
「…うーわぁ…何か、Lessの総長さんって真白にだけはとことんというか…ぞっこんというか…むしろもうなんかアブナイ…」
聞き終わった泉が引き攣った笑みを浮かべて呟く。
…否定は出来ない。
「…で、俺は困ってるんだけど…」
「うん、それはまぁ困るかなぁ…」
苦笑をすると泉は手元の携帯をポチポチと弄り始めた。
「で、総長さんは所謂ザ・首輪!みたいなのが欲しいの?」
「いや、そういうわけでもなさそうだけど…」
「ふぅん、ならこういうのはど?」
泉が見せた携帯の画面は見慣れた通販オンラインショップのサイトが表示されていて。
そこに載っている商品を見て、俺は思わず一つ頷いた。
オーブンに入れた肉に再度目を向けながら手元の野菜を切る。
スープはホワイトソースから作ったし、クルトンも買っておいた。
今オーブンに入っているローストビーフが手がかかるだけで、サラダはスモークサーモンを散らして玉ネギのみじん切りと酢とオリーブオイルで混ぜたドレッシングと和える簡単な物だから結構楽だ。
ケーキもスポンジは作って向こうで逆さまにして覚ましている所だし、サラダが出来てローストビーフが出来たころに飾り付けをしようかと考える。
シロには出かけてもらっていて、後1時間もすれば帰ってくるだろう。
グラスを出しながら、俺は楽しみで小さく笑みを浮かべた。
「ただいま…」
「お帰り」
部屋のドアを開けて目を見開いたシロを見て笑みが漏れ出るのを抑えられない。
「凄いな…全部手作りなのか…」
テーブルの上に並べられた料理にシロがほぅっと溜息を吐く。
こういう反応をしてくれると頑張ったかいがあるというものだ。
「丁度出来たからさ、食べよう?」
「ああ…」
シロの手を引いて向かいの席に座ると、俺達は料理を口に運んだ。
口を開けば美味いとしか言わないシロを目を細めて見つめていたが、そろそろかなとテーブルの下からプレゼントを取り出す。
綺麗な包装をされた細い箱を差し出されてシロが目を輝かせた。
「開けても…?」
「…うん」
丁寧に包みを剥ぐシロを見つめながら気に入ってもらえなかったらどうしようかと少しの不安が胸をよぎる。
「…ん?」
「ど、どうかした?」
ふとシロが眉を寄せ、まじまじと包装を剥いだ箱を眺めた。
そ、そこには店のロゴくらいしかないのだけど…もしかして嫌いな所のメーカーだっただろうかときゅっと心臓が縮む。
さっきとは変わって少し荒々しい手つきで開けた箱の中身を見て、シロが目を見開いた。
「ご、ごめん。首輪って言われたけど、シロに動物みたいな首輪は俺が何か嫌で…その、チョーカーなんだけど…」
泉が見せてくれた画像は格好いいデザインのチョーカーで。
なるほどそれならばと思って色々探してみた所、案外ここから近い所にレザーアクセサリーを扱っている個人店舗がある事を知った。
そういうのが好みの人達にもそこそこ有名な店らしくて、そこで見つけたのだけれど…。
「これ…」
「う、うん」
「高かったろ…?」
「…」
確かに高かった。
1個1個ハンドメイドで、おまけに付いてるシルバーの部分もハンドメイドだからかなり値が張った。
でも、シロのだから…と思って。
「…嬉しい」
その言葉に顔を上げると、シロは本当に嬉しそうに頬を緩めていて、それだけでもう俺は十分だった。
「なぁ真白」
「うん」
「真白がつけて」
「…うん」
渡されたチョーカーを手に取ると、金具を外してシロの首に持っていく。
黒の細いレザーは二重で、小さいシルバーが3つアクセントとして付いているシンプルなデザイン。
「…名前入れてくれたんだな…」
「あ、分かった?」
その真ん中のシルバーには『Shiro』と小さく入れてもらった。
下の名前にしようか迷ったのだけれど、この名前は俺とシロに通じる大切な物だから。
首に回して金具を留めると、シロの手が急に腰に絡み付いてきた。
「うわ?!な、何?」
「真白、俺今日誕生日なんだよな…?」
「う、うんそうだね」
「…じゃあ俺のお願い、何でも聞いてくれるよな…」
「……え?」
ふわっと笑みを浮かべたシロに何故か嫌な予感しかしなかった。
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