俺は無言で手に握っている物を睨み付けた。
その様子を店員さんが奥から窺っているのが分かる。

――…今時のやつってデザインも良いし、色も綺麗だし、使っている素材も良い物が多いんだなぁ…。

だけど、ここで購入するのはいかがなものか。
いくらデザインが良くても、質が良くても…でも、ここ以外で購入出来る場所が思いつかない。
そう思いながら、溜息を吐いた。


「あのう…」

「あ、はい」

「お探しの物は見つかりませんか?」


見かねたのか店員さんが声を掛けて来てくれた。
それに苦笑交じりで返事をする。


「いえ…まぁ、ちょっと」

「見た所、大型犬の物をお探しの様ですが…」

「ええ…そう…なりますかね」


俺は手に握る首輪を見て渇いた笑い声を上げた。




発端は昨日のシロの発言だ。


『でさ、シロは何が欲しい?』

『……何も』

『何でも良いんだよ、何か一つくらいは無い?』

『…真白がいれば、良い…』

『……それじゃ俺が嫌なんだよ…』


嬉しすぎる言葉に少し赤面しながら抗議すると、柔らかい笑みを浮かべながらキスをされた。
ゆっくり入ってきて焦らすような舌の動きに翻弄されそうになって、はっと我に返りシロから離れる。


『き、キスで誤魔化すなよ!…何か欲しい物言わないと、もうキスしないからなっ』


その言葉にショックを受けた表情をするシロ。
犬みたいにシュンと項垂れ、おずおずとこちらを窺ってくる。
シロには絶対尻尾と耳が似合うと心底思う。
だらりと垂れる尻尾、ぺたりと伏せられる耳。…うん、似合う。
もういっその事何も欲しい物が無いと言うのならば犬耳のついたカチューシャでもやろうかと一瞬思ったが、すぐに却下をする。
…だってそんなのじゃ足りない。

俺はショックを受けたままのシロに抱きついた。


『…なぁシロ。俺、シロに何か形の残る物あげたいんだ。』


逞しい肩に頬を押し付けながら一言一言噛み締めながら口にする。


『俺もシロがいるだけで良いよ?シロ以外何にもいらないよ。
でも、ずっと傍にいられるわけじゃないじゃんか…?』


その言葉に強い力で肩から引き剥がされて、焦ったような、怒っているような表情で見つめられた。


『そ、れって…』

『ううん、違う。そうじゃない。別に、いつか別れるかもしれないとかそんな意味じゃないよ。
その言葉通りの意味。
俺には俺の生活があって、シロにはシロの生活があるだろ?四六時中一緒に居られる訳じゃない…』


でも、俺はずっと一緒にいたいくらいシロが好きなんだ。


『だから、何か傍に置いておけるような…それを見て俺がいない時に思い出してもらえるような物をあげたいって言ったら、独占欲強すぎる、かな……』


シロは恰好良い。
背も高くて、男前で。女の子が放っておく訳がない。
シロを見て頬を染める女の子を見つける度に胸の奥からどろどろとした黒い物が溢れだして来そうになるくらいなのだ。

こんな独占欲の強い相手なんて嫌だろうか。
恐る恐る顔を上げると思い切り強く抱きしめられた。


『い、いだだだ、シロ!』

『…っと…』

『え?』

『もっと…俺を独占してくれ…』


震えている声はもしかして喜びで震えているのだろうか。
そうだったら俺もすごく…


『…じゃあ、俺一つだけ欲しい物が…』

『本当!何?』


何か欲しい物を言ってくれるだけで嬉しい。
何を言ってくれるかと思った俺を、次の言葉が打ちのめした。


『首輪』


……え?


『くびわ…?』

『ああ』

『………あの、犬とか猫とかに付ける…』

『ああ』

『…え、シロそういう趣味があった…』

『違ぇ』


思わず即否定したシロに少し安心するが、じゃあ一体…と窺う。


『俺が真白の物だっていう証に、首輪が欲しい』





『他に欲しい物は無い』そう真顔で言われたらそうするしか無くて。
だけど首輪なんて一体どこにあるんだと頭を抱え、現在ペットショップにいるわけだ。

シロに首輪というファッションが似合うであろう事が猶更洒落にならない。
手の中の赤い皮に銀の鋲が打ってあるいかにもな首輪を指でなぞった。
どれだけシロに首輪が似合おうと、ペットショップで買った物をあげるのは気が引ける。
俺は店員さんに苦い笑いを向けて礼を一つ言うと店を出た。



[3/6]
[*prev] [_] [next#]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -