目の前にでかい図体の男を正座させているこの光景はシュールに違いないが、そんなことお構いなしに口を開く。


「まずシロ。俺は確かに通常男子高校生よりかは髪が長いけど、男だ。
小さいかもしれないけど、男だ。
名前も分かりにくいかも知んないけど、男だ。そこんとこDid you understand?」

「はい」

「というか、顔から見ても男にしか見えないだろ?」

「…」


――あれ、返事がないぞ?………出来ればここでYesの返事が欲しかったのだけれど…。

やっぱり女顔なのだろうか。
まあ母親似なんだしな…と少し暗い思念に囚われそうになったのを慌てて振り払う。
せめてこっちにいる時位考えたくない事だ。


「じゃあシロ。お前、俺が女だと思ってキスしたのか」

「違う」

「なら――」

「でも、ましろは可愛いと「次そんなこと言ったら、即追い出す」

「…はい」

「んでもって、男と男がチューはおかしいだろう?」

「…」

「シーロー?」

「…………はい」


なんだその間は。


「はぁあああ」

「ごめん…」

「もう、いいよ 失ったものは返ってこないさ…」

「ごめん…」


ふっと何か悟りを開けそうな境地で乾いた笑みを浮かべると、しゅーんとうなだれるシロ。
…ああ、垂れる尻尾と耳が見える気がする。
大きな体を縮めて下手をすれば怖くも見える容貌を悲しみ一色に染めている姿は悪戯をして叱られている大型犬そのものだ。


「もういい。気にすんな」


少し笑ってやると元気が出たようだ。
ぱっと顔が輝き、その後自分でもこれでは反省していないようだと思ったのか、必死で真面目な顔を取り繕う。
シロの考えている事が手に取るように分かって、思わず苦笑した。


「いっそのこと、ノーカウントにするってのも有りだし」

「それは駄目だ!!」


…………は?


「ましろのファーストキスは俺が貰った!!」


わんわん!!と吠える様に自己主張するシロはすっかり反省モードを解いている。
そんなシロをじろりと見て


「シロ…お前まったく何も分かってないよなぁ…?」


地を這うような声で説教は第二ラウンドへと持ち込まれた。



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