美味しいというのはおだててくれただけじゃないみたいだ。
怪我をした分を補うように何度もおかわりをするシロに小さく笑みが漏れる。
「それだけ食べられるならもう大分元気だな…」
「…」
思わずつぶやいた一言にシロの手がまた止まるが、もくもくと箸を進める俺はそれに気付かなかった。
「まあ…うち身と、擦り傷、裂傷、軽い打撲…育ちざかりの身体なら早く治るのか…?
そんなに怪我したこと無いからわからないけど…。
熱も怪我から来てたものだし、薬もいらないかな。今日は風呂に入ってゆっくり休…っ?!」
目を上げて俺は絶句する。
図体のでかい男前な男子高校生が隠すことなくぼろぼろと泣いていた。
「えっ?!えっ!?ど、どどどどうした!!?
どこか痛むのか!?それとも俺なんか言った!?」
近寄りおたおたと目の前で手を振る。
なんでこんな泣いてんだ。
子供みたいに高校生が。それも誰が見ても男前だというような男がだ。
「…っぐ、…っ…ふっ…」
綺麗な二重の目から大粒の涙が溢れ、睫毛を濡らして目尻からこぼれていく。
思わず近くにあったタオルで顔を覆い、拭く。
「どーした、どーした。何故に泣くんだ」
わしわしと顔を拭いてやると、がしっと腰に手を回され抱きしめられた。
「…め?」
「ん?」
「帰らないと…駄目、か?」
そっとタオルをずらして俺と目を合わせると、またぶわぁああああっと涙がこぼれ出した。
「うぉおおいっ」
「…だ、っぐ、…ま、だ、此処、に…いたいっ…」
えぐえぐと言葉を切らしながらぎゅうううっと抱きしめる腕に力を込められる。
「あーあー…そんなことでそんなに泣くなよ…」
ぽんぽんと頭を撫でる。
「治ったか定かでもない怪我人を追い出すなんてひどい真似しないよ。今日は泊ってけって」
同じ高校の生徒というだけで俺の中の警戒心なんて無いに等しかった。
それに男同士だし、何の気兼ねもないだろう。
悪い人には見えないし、元々そうさせるつもりだったから笑ってそう言うと
「ましろっ…!」
感極まったようなシロに
ちゅーされました。
…ほわっつ?
目の前のシロの男前な顔のドアップと、唇に触れる熱い物に頭がついていけない。
ナニかなコレは?
「ん…」
ちゅっとリップ音をたてて離れていくシロ顔。
でもほんの少し離れただけで数センチ近づいたらまた………また…。
また『何』をしてしまいそうになる距離だ!?
「ましろ…」
そっと呟いてまた『何』をしようとするシロを
「わぁああああああああああ!!!!!!!???????」
と絶叫してつき離した。
と言っても俺なんかよりずっとガタイの良い体がちょっと押しただけで離れてくれる訳も無く、押した力で俺が離れる形になる。
「ままままままて!何!!何してんだお前!?」
「キス」
「そう、キス!!…ってわぁあああああああああ!!!!!!何現実つきつけてんだ!!」
口を手の平で隠して崩れ落ちそうになる。
「どっ、どっ、どうしてくれるんだ!!」
俺の初キッス!!初接吻!!今どき(?)で言うならファーストキス!!
「初めて…?」
「あったりまえだ!!だったらこんなに動揺せんわ!!」
いや、男としただけでも大分動揺するか。
とにかく何が起こったのか良くわからない。
唇に残る柔らかいような感触と熱だけがやけに残っている気がした。
そんな動揺を隠しきれない俺に
「そう、か」
そう言いながらシロは本当に嬉しそうに笑った。
その顔を見てプチン…と何かがきれる音がした。
「シロ」
「うん?」
「そこに座れ。正座だ」
びしぃいっと床を指さす。
「え?」と小首を傾げたシロが俺の顔を見て顔を引き攣らせ、おずおずと言われた通りに正座をした。
「あのなぁ、シロ…!!!」
それから俺はシロを延々と怒った。
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