君もシロ 俺も白 

目の前でまた眠りについた男をしげしげ見つめる。
奇抜な髪色だが、それが難なく似合ってしまう男前。
睫毛ながー…とか思った。

さっきはまるで人間不信の猫みたいな目で見るもんだから少しいらっとして叩いてしまった。
…病人なのに大丈夫だったろうか。そんなに力は入れてなかったけれど。
この気持ちは…そう 枝の上から降りれない猫に手を伸ばしたら引っ掻かれた時のあの感情に似ている。
「言うこと聞けよ!助けたいだけだってば!」が7割の むなしさ2割、悲しさ1割。

だから、そんな毛を逆立てている猫をどうどうと宥めるように接したら案の定安心して眠ってしまった。


「んじゃぁまあ、晩御飯の用意しますか」


よっこらせと腰を上げると台所のある下の階に下りた。


簡単にお粥を作って、晩飯には早いけれど手負いの猫(仮)の所へ運ぶ。
もしまだ寝ていたら下げて、起きた時に温め直してやろうと思いつつドアを開けると、起きていたのかこちらに顔を向けた。


「食べる?」


と聞くと今度は素直に頷いた。

――あ なんか手懐けた感があって嬉しいかも。

ちょっとほくほくした気持ちで側の小さなテーブルにお盆を置く。


「食べたらそこに置いといて。
薬もそこに置いておくからちゃんと飲めよ?俺下にいるから何かあったら呼んで」


そう言って次は自分のご飯の為に台所に戻った。






ねぎを刻みながらこんにゃくの様子を見ていると後ろの床がぎしりと鳴る。
後ろを振り向くよりも先に重い物が背中に圧し掛かって来た。


「?」


首だけで後ろを見ると手負いの猫(仮)が抱きついてきていた。
サイズ差的に非常に動きにくい。
…もしかしてどこか辛いのだろうか。


「どうかした?」

「名前」

「んあ?」

「名前、何」

「名前?」


こくり。と彼の首が縦に振られる。


「俺の?」


こくり。


「…笹西 真白(ささにし ましろ)」

「…ましろ」

「そう。皆からは『白』って呼ばれてる…いや、【呼ばれてた】かな?」


ここ最近はそれで呼ばれないもんな…と思っていると


「『しろ』?」

「うん『白』。でもここ最近は…」

「俺と同じ」

「ふ?」

「俺も『シロ』」


何だか嬉しそうな声音で俺も俺もと繰り返される。


「へええ、そうなんだ。名前は?」

「城沢、蓮(しろさわ れん)」

「あ。名字の方からとったんだ」


またこくり。

今思ったんだけど、俺以上に口数が少ない気がするぞ城沢君。


「城沢君」

「蓮」

「え?」

「蓮」

「そう呼べと?」


こくり。


「いやいや、だって初対面で名前呼びは…」

 
俺にはハードル高めと言うか…。


「じゃあシロ」


それはそれで、俺も『白』だったからまるで自分の事を呼んでるみたいなんだけどなぁ…とか思ったけど、まぁ名前呼びよりはと妥協する。



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