バイクで走ってついたのは街の外れの寂れて潰れたような喫茶店だった。
ここの鍵なのかとシロを仰ぎ見ると、手を掴まれて裏に連れて行かれる。


「裏口の…鍵なのか?」


シロは無言で首を振ると、裏に置いてあるこれまた古そうな小さな倉庫に鍵を差し込む。
なるほど、ここの鍵なのかと思う俺の前で軋みながら開けられた倉庫の奥には、厳重そうな金庫がシロの脇から見えた。
そんなに大きく無いとはいえ、重々しいそれは、小さなおまけに錆びついているような倉庫には違和感を感じる程不釣り合いだ。

その金庫の番号をさっさと合わせると中から何か2つ取り出し、裏口のドアに歩いて行く。
取り出したのは鍵だったみたいで、またまた軋みながらドアが開いた。
中は外からも想像できるように荒廃していて、とても『ごゆっくりお話』するには不向きな気がする。

鍵の為に鍵をくれたのか?と首を捻るが、吾朗さんの事だからそんな無駄な事をするわけ無いと思う。
金庫から取り出した物は何なのだろうと手を掴まれながら視線を手に向けて、ぎょっとした。
何だかこの喫茶店には何処にも使われていないようなカードキーが…

でもシロの脚は迷いなく喫茶店の一つのドアを目指し、そこから繋がる階段を下り…そして何度目か分からない『この喫茶店には不釣り合いな』扉にカードを差し込み、勢いよく開けた。


「…嘘、だろ…」


そこに広がるのはどこのホテルかと突っ込みたくなるような綺麗な一室で。
息を呑んだ俺の腰に重い衝撃が走ったと思ったら、持ち上げて力強く抱きしめられる。
一瞬の浮遊感を感じた後、大きなソファーの上に座ったシロの膝の上に跨る形で座った。


「ましろ…っましろ…」


細い声で囁きながら迷子の子供がようやく会えた親に縋る様に背中に回した腕が震えている。
もう何処にも離れないとでも言うように。

膝立ちで、胸の辺りにあるシロの頭をゆっくり抱きしめる。

ああ、馬鹿だ、俺は。
自分の過去と現在を探られたくないから、相手を見る事をしなかった。
大切に思う人ならば、大切にするためにも、傷つけないためにも、ちゃんと打ち明けて、向き合うべきだったんだ。

シロは突き離しちゃいけないんだ。

それは…俺も同じで。
シロがいないと、こんなに俺は心が空っぽで。突き放すと血を吐くほど辛くて。


「ごめん…シロ…」


それはシロを突き放してしまった事に対する謝罪なのか、それともシロを古醐宮の事に巻き込む可能性があるのに、もう手放せない事に対する謝罪なのか、俺にも分からなかった。
白と黒の奇抜な色の髪を指で梳きながら、ちゃんと話しをしないとと思う。
俺の事。古醐宮の事。青葉の事。あの時の事。

そう思うと心臓が早鐘のように鳴って、背中と手の平に汗が滲み始める。

なんて恐いんだろう。大切な人に本当の事を打ち明けるという事は…。
手放せないと分かったのに、嫌われるかもしれない事を口にしないといけないなんて…

でもちゃんと言わなければと震える唇を開いた。


「…ましろ、すごい心臓の音…」

「へっ!?」


口を開こうと思った瞬間に、遮られて思わず飛び上がる。
ずっと俯いていた頭が上がり、シロが柔らかく微笑む。
その笑顔がついさっきの虚ろな顔と全然違う物で、でも頬にまだこびり付いている血がさっきまでの虚ろな表情を思い出させて。
色々な感情が溢れて来て俺は思わずシロの頬を両手で包んだまま泣いてしまった。
ぱたぱたとシロの鼻の上や頬の上に涙が落ちる。


「ごっ、ごめんっ」


慌てて手で拭うと、その手を掴まれて頬に押し当てられた。


「…ましろ…」

「…ふっ、う…っ」


ボロボロと泣きながら、整理出来きれない言葉を吐く。


「ごめんっ、本当にごめんなっ、俺、あんなっあんな…っ本当は、嫌だったっ、でもっ、シロを…青葉からっ…」

「ましろ…ましろ、大丈夫だ……」

「俺っ、汚いんだ…っ汚れててっシロが、言うみたいに優しくなんかなくって…!」

「ましろ…俺を見て」


次は俺が頬を挟まれて、顔を合わせる。



[52/65]
[*prev] [_] [next#]

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -