これが俺が出した答え…?
シロ、何でお前がそんな目をしてるんだ。
何で死んでるような目で…俺はそんなの望んでなかった。
お前、前はもっと明るい顔してたじゃないか。
「シロ…」
ぼろぼろと涙が零れた。
「良く見ておくんだよ、姫さん。
シロがああなったのは姫さんの所為だ。それを見届けるのが、シロを突き放した姫さんの義務だ」
「そ、んな…」
柔らかい物言いで、吾朗さんの言葉が無情にも胸に突き刺さる。
違う。違う。俺はこんなの望んでなかった。
でも、これが本当に俺の所為ならば。
「シロ、ごめん。ごめん、そんな…シロ…シロっ」
俺は頭を抱え込んでしゃがんだ。
違う。突き放した事でシロは前に進めるはずだ。お前が俺を見放して、嫌ってくれる筈で…。
心がそんなの嫌だと血を流して叫ぶのを耳を塞いで我慢して、俺はお前を突き放したのに…。
俺を嫌って、前を向いて。
俺を忘れて、前に進んで。
シロに俺なんかつり合わないから。
今にも粉々に砕けそうなくらい皹の入った心を必死に握りしめ、あの時青葉の前で、取り繕ったのに。
幸せを願って、悪い方向から逃がそうとそう思っただけなのに。
「なんでだよぉ…っ!」
「シロは強くないからだよ、姫さん」
吾朗さん声に涙で濡れた顔で見上げるといつもと変わらない微笑みがそこにあった。
「捨てられたら前に進めなくなるような奴だよ。シロは」
呼び戻せ。
吾朗さんが囁いた。
「アイツを呼び戻せ。姫さんの隣じゃないとアイツは幸せじゃないんだよ」
「でも、でも俺の隣はシロがいるような場所じゃない…俺は汚いから…」
「いいんじゃない?それでもシロがそこが良いって言えばさ」
「で、でもっ俺の横にいたら、シロを酷い目にあわせる…」
青葉の顔が浮かんだ。
吾朗さん溜息をつきながら殴りかかって来た人の腹を綺麗に脚で受け止める。
「あのね、シロはすっごい弱いけど、姫さんの隣にいたら何よりも強いから。シロの事なんか心配しなくて良いよ」
…そ、う…なのだろうか。
それが本当なら、本当なら…。
俺は、お前の側にいたい…よ。
「ほら、姫さん呼んで」
「………シロ…」
「ばっか、聞こえないよ」
「シロっ」
「もっと大きな声で」
「シロっ!」
「叫べ!!!!」
叱咤され、俺は胸いっぱいに息を吸うと声と共に吐きだした。
この喧騒の中、彼に。シロに、届くように。
「シロぉおおおおおおおっ!!!!!!!」
その声に、白と黒の髪の男の髪が揺れて振り返り、目が俺を捉える。
目に、光が宿った気がした。
「まし、ろ…」
ピタリと止まったシロはすぐさま真白の方に歩き出した。
「うぇ?あ、え、ボス?」
柾谷は拳で相手を殴り付けながら急に大きく動き出したシロに疑問の声を上げた。
春臣は真白の叫び声が聞こえたのか、溜息をついて「も少し早く呼べよ…」と呟くと
「おい柾谷、和彦。総長が通り易いように道にいる奴、片っ端から伸せ」
「え?え、あ、うん。了解ー」
「……分かった」
「味方もな」
「はーい…って、え!?味方も?!」
「……分かった」
そう言っている間にシロはどんどん歩いて行く。
最近の心ここに非ずな歩きでは無く、確実に何かを目指している。それも段々歩く速度が上がっていく。
背の高い彼が殴り合う人の群れを掻き分けて…いや、殴り飛ばしながら真っ直ぐに歩いている。
「…まあ、あの様子だったら俺達の出る幕はないかもしんねぇけど」
敵であろうと味方であろうと道を塞ぐ者は腕を振って排除するその姿を見て、苦笑交じりで呟いた春臣の声は殴り飛ばした味方の驚きと呻きに掻き消えた。
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