呼び戻す 

薄暗い闇をいくつものライトが裂く。
少し離れた所に止まったバイクの集団から人が下りる。
光を背にして黒く染まったその影に俺は自分でも知らない内に唾を呑んだ。

――シロは?

と首を巡らす。
総長だと言うからには一番前にいるのだと思っていたが、一番前には影も見えず、その代わりに見知った顔がそこにあった。
ライトを浴びて輝いているように見える金の髪と光を跳ね返すピアスをつけた人、気だるげに両手をポケットに突っ込んでいる白い髪の人、そしてそわそわと落ち着きの無い黒髪に緑のメッシュの入った人。


「…あ」


それはシロの傍にいた人達で。
その事が本当にシロが此処に関係しているのだと思い知らせてくれた。

三塚君の目が吾朗さんを見つけ、すこし目を細めると目を横にずらし、俺を見つけて眉間に僅かに皺を寄せた。
その一連の動きに思わず肩が震える。
そう言えば三塚君には最初、シロを利用しようとして近づいたのだと思われた事を思い出す。
敵方の、それもその総長の横に立っていたら再びそう思われたって仕方がない。
少し皺を寄せた後、直ぐに反らされたその目線はまるで見限られたようで胸が痛んだ。


「春臣ー」


そんな俺の心境を知ってか知らずか、このピリピリとした状況に似合わないのほほんとした声で吾朗さんが三塚君を呼ぶ。
呼ばれて返事はしないが、目で三塚君が応える。


「シロはちゃんと来てっか?」

「…ああ」

「よしよし。なら良いや」


満足そうに頷いた吾朗さんにLessの人達から「なめとんのかゴルァ!!」「ぶっ殺したらぁ!!」などと怒声が降りかかって来て、俺は隣で身を竦めた。
悪意の籠った怒声という物がどれほど怖いのかを身を持って知る。

身を竦めた瞬間、何か低くくぐもった音と誰かの呻く声、どさりと崩れ落ちる音がした。
もう喧嘩が始まったのかと慌てて顔を上げると

―――し、ろ…。

相手側の人が一人、膝を付き蹲っているその隣に…シロが立っていた。

いや、あれは本当にシロなのだろうか。
あの身長も、あの髪色も、あの面立ちも全部『シロ』だ。
でも、何故か一瞬シロに見えないくらい、虚ろで、無表情な顔をしていた。

握られた拳から、その蹲っている人を殴ったのはシロだと分かる。
でも何故?その人は自分のチームの仲間ではないのだろうか。
シロがその人を殴った事で、Lessの人達の空気の中に恐怖と怯えが混じったのが分かった。


「…ちっ、そこまで来てんのかい」


吾朗さんが舌を打ち、小さく呟く。
疑問の目を向けると片方の頬を歪め、「チームとしての劣化さね」と苦々しげに吐き捨てた。
シロは俺に気付いた様子は無く、ただぼんやりの自分の拳を眺めていた。

吾朗さん達の前でシロは虚ろな表情のまま、ゆっくりと首を巡らせチームの一人に目を止める。
ひっとその人が悲鳴を上げるのが聞こえた気がした。


「何してる…行け」


低く、抑揚のないシロの言葉にその人が大声で喚きながらこっちに走り始める。
それが喧嘩の火蓋を切った。






目の前で起きる本当の殴り合いに俺はただただ息を呑むしかなかった。
吾朗さん達のおかげで俺は本当に怪我をしていないのだけれど、鼻先で止められた拳や、目の前で顔面に拳を喰らう人を見て、もう膝が震えまくっている。


「姫さん」


吾朗さんが誰かの腹に思いきり蹴りを喰らわせながら振り向いた。


「見て御覧」


吾朗さんが指をさした方に顔を向ける。


「あれが姫さんの出した答えさね」


それは凄惨な光景だった。
頬に血を飛び散らせながら白と黒の男が無表情に、まるで機械のように腕を振り上げている。
ふと目がこちらを向いたが、その暗いその目に何も映って無い。
彼の頬に飛ぶ血は彼自身のか、それとも返り血なのか分からなかった。

虚ろな目を見た瞬間、怖かった。怖かったけど、それ以上に悲しかった。



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