「じゃ、ちょっくら行こうかね」


日が暮れかけた頃、近所のコンビニにでも出かけるような気軽さで吾朗さんが立ちあがった。
その言葉にわらわらと周りの不良さん達も立ち上がる。
人も集まって最初いた人数の2倍以上はいそうだ。

吾朗さんに連れられて外に出ると


「はい、じゃあこれ被ってそこに乗ってな」


にこやかに笑ってヘルメットを差し出され、黒光りしているゴツイバイクの後ろを指さされた。





まだ日の長い部類に入るであろう日が沈んだ後特有の薄紫とも言えない薄暗くも明るい中、吾朗さんのバイクの後ろに乗ってついたのは


「…グラ、ウンド?」


大分山の方に来た気がするのに、何故こんな所にグラウンドがあるのだろうか。
離れた所に大きな建物もある気がする。


「ここは所謂林間学校さぁね。丁度人もおらんで空いてるって話を耳にしたから使わせてもらおうかと思って」


ここなら他の人様ぁに迷惑がかからんだろうし とニコニコと笑いながら吾朗さんがグラウンドの真ん中に立った。
ずっと肩を持たれていて、傍にピッタリとくっついている形になる。
そうやって吾朗さんは俺を自分の身体で俺を隠そうとしてくれているのだと分かった。

真ん中に立った吾朗さんを囲むように仲間の人達が立つ。
浮かべていた笑みを消して吾朗さんが皆を見渡した。


「お前らが怒るのも分かる」


吾朗さんの静かな言葉以外に何も音はしない。
笑みを消しても、決して怒っている訳ではなく、ただ穏やかな光を眼差しに吾朗さんは宿していた。


「俺はなんとなく分かっていたけど、お前らにとっては急な分裂だったもんなぁ。
あいつらが勝手に歯向かってきたと思って理不尽な気持ちだったよなぁ。
俺がアイツらに構うな、耐えろって言ってたから嫌な想いを抱えたままだったよな…ごめんな、俺の所為だ」


それは違うと声高に否定しようとした不良さん達を恭志郎さんが手で制した。
吾朗さんが何の感情も浮かべていない恭志郎さんに小さく微笑む。


「ありがとな、ついて来てくれて。今日は盛大に暴れろや」


その言葉にわっとその場が沸く。


「ただし」


だけどその次の言葉でまた場が静かになった。
こんなに吾朗さんの一言に従うなんて一体どれたけこの人達は吾朗さんを信頼し、慕っているのかと、その静けさに少し唾を呑んだ。


「俺みたいな怪我を相手に負わせるなよ。お前らも勿論負うんじゃない」


皆の視線が吾朗さんの片目に集まって、各々に頷く。


「それと、この子に怪我させないようにしろや」


がっと肩を掴まれて1歩前に進まされた。
吾朗さんの片目に集まっていた目線が俺に移されて竦む。


「俺達はアイツらを叩きのめしに来たんじゃない。止めるために来たんさね。姫さんはその鍵だ、だから守れ」


『鍵』とは一体どういう事なのか聞こうと吾朗さんを見上げたが、その疑問は不良さん達の「うっす!」という掛け声に紛れ、


「そろそろかね…」


という吾朗さんの言葉の余韻が消えない内に低いエンジンの音が響いて来た。



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