「豆腐と葱とあとこんにゃくかぁ…晩御飯何にしよう」
俺はゲットした特売品を眺めながら考えた。
今日の特売品からおかずを考えるのが俺のモットーだったりする。
「揚げ豆腐…は3日前にしたしなぁ」
献立を考えながらぶつぶつ言いながら歩いていると、道の端をよろよろ歩いている人が目の端に映る。
――あ、あれうちの制服だ。
よろよろ歩いている人は俺の通っている高校の制服を着ていた。
――でも、あんなやついたっけ?
俺は人の顔と名前を中々覚えられない。友人曰く覚える気がないからだそうだが…。
そんな俺でさえも目の前の人物は一目見ただけで忘れられないような気がした。
なにしろ目の前の彼は左半分が白、もう半分が黒の髪なのだから。
でも十中八九その目立つ彼が髪を全て黒く染めたりしたら分からなくなると思うし、白色と黒色が次の日に逆になってても気づかないと思う。
まあそれはおいといて。
――ブラック・○ャックみたいだな。
某無免許医師の漫画を思い出す髪色の彼は時折立ち止り、壁に片手をついて肩で息をしている。
つらそうだなと思いながら俺は他の事を考えていた。
――背骨曲がってる。んでもって、この人左利き?
なにかボクシング的な運動してるのかな?少し右肩あがってるなー…。
彼がふらりと大きくよろめいた事ではっと我に返る。
父親の仕事上、そういう知識に触れる機会が多いといえど、人を見る度に身体の歪みを見てしまうのは悪い癖だと思う。
それも相手は何だか苦しそうだというのに。
なんか申し訳なくなって、その人に近寄ると声をかけた。
「大丈夫…?」
しかしその質問に返事は返って来ず、伸ばしかけた手を振り払らわれると同時に彼は倒れた。
どこに行けばいいのか分からない。
何をすればいいのか分からない。
痛みで霞む思考では深く物事を考えられなかった。
そんな中、誰かに声を掛けられたと思ったが反射的にそれを拒絶し、それを境目に俺の意識はふつりと途切れた。
次に目が覚めた時には見知らぬ天井が目に入った。
――どこだ?ここは…。
熱を持って滲む視界を彷徨わせる。
「あ、起きた?」
単調だけども聴きやすい声が耳に入る。
――誰だ?
聞きたいけれども喉が引き攣れて声が出ない。
「ん、はい」
体を起こし、眉間に皺だけ寄せて無言でいると水の入ったグラスを差し出された。
「喉、渇いて声出ないんじゃない?」
良く分かったなと少し驚いたが、素姓の知れない奴の手から貰うものかと睨みつけたら
「…」
しばらく無言の後、
べしっ
頭を叩かれた。
「…つっ」
「病人は拾われた人の言う事を聞く」
余り痛みは無かったが、状況を判断しきれていない今、それなりに打撃力がある。
…その病人を今殴ったぞ? という想いは俺の口から出ては来なかった。
なんだか少し怒ったような声でそう言われた後「…安心していいから」と続けられ、何故か分からないが、言葉通り馬鹿みたいに安堵してしまった俺はそいつが差し出すコップに無言で口をつけた。
[3/65]
[*prev] [_] [next#]