「そういう反応をするって事は、姫さんはシロの事を知ってるんだね?Lessのシロを」
「……はい」
「どういう出会いだったか聞いて良い?」
吾朗さんは『関係』と言わずに『出会い』と聞いてきた。
…何故この人はこんなに人の心を見透かしたように優しい質問をしてくるのだろう。
「…俺、が倒れたシロを家に連れて帰って、怪我の手当てをしたんです…」
「…そっか…姫さんが拾ったのか」
目を閉じて呟くと吾朗さんはそのまま目を開けずにゆらゆらと身体を揺らした。
「拾った後、ちゃんと飼ってやったかい…?アイツは犬みたいな奴だろ?」
「お、れ…」
その質問に思わず俯く。
でも答えなきゃいけない。この人にはしっかり言わなきゃいけないと何故か思った。
「俺、シロを突き放しました。
…理由は言えません。でも俺は駄目なんです。シロの側には居られません。俺なんかじゃ駄目なんです。
シロを不幸にするから…」
「………そうか…」
波に揺られる様に揺れていた吾朗さんの身体がぴたりと止まって、遠くを見つめる。
「…俺は今日Lessの奴らと喧嘩する。Lessもそれを知ってる。後ろの奴らは俺に付いて来てくれる奴らだ」
怪我人もいっぱい出るだろうなぁ…という言葉ざわっと鳥肌が立つ。
シロが…怪我をするかもしれない。そう思うだけで胸が痛んだ。
出あった時の怪我なんか目じゃないくらい…そう、もしかしたら吾朗さんみたいに…。
血の気が引く気がした。
「な、何で!」
「シロを憎んでない。Lessの奴らも憎んでない。だって俺が集めた奴らだからな…可愛いくらいだぞ。
だけどな…だからと言ってやりたい放題しているのを黙って見ている訳にはいかないんだよ。
それも俺が集めた…拾ったからだ。アイツらを止めるのが拾った俺の責任だ。
そのためには喧嘩をしなきゃアイツらは止まらないんだよ。白黒をはっきりつけないとね…今が良い機会なんだ」
「い、良い機会…?」
吾朗さんは真っ直ぐ俺を見つめると
「ちょっと前からLessの…シロの暴力沙汰で巻きこまれている奴らが激増したんだ。
シロは確かに喧嘩は強いけどね、今まであんな風に無差別に殴ったりした事は無いんだよ。
そのシロが喧嘩を自分から売ってる…いや、もうそういうレベルじゃないくらい。
――今止めなきゃシロがやばい。」
真っ直ぐな吾朗さんの瞳が俺を射抜いた。
「姫さん、俺は何も聞かないよ。でもシロを一度拾った責任は姫さんにもあるのは分かるね?」
付いておいで。
そう吾朗さんは言った。
「俺達の喧嘩に付いておいで。怪我はさせないから。
ただ、その目でしっかり見るんだ。それが姫さんの責任を全うする事だからね」
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