「お、俺は…」
…俺は何なんだろう。シロと出会って1ヶ月も経ってない。一緒にいた時間なんて3日も無いくらいだ。
それだけなのに、シロは俺に告白して来た。
そして俺はそれを拒んだ。
だって俺なんかと居たってシロは幸せになれないから…苦しめるだけだから…。
じゃあ今シロを振った俺に残っているシロとの関係とは一体何だ?
…俺とシロの関係なんて、俺が倒れていたシロを一晩だけ泊めた。
そうだ。一泊の恩、それだけだ。
なのに、そう言うのが嫌だと思った。
そういえばこの場が悪い方向に行かなくても済むのは重々承知の上だ。
でも、たかがそれだけの関係だと俺の口から言いたくなかった。
だってシロは…シロは俺の…………シロは俺の何?
言葉に詰まって目を泳がせる俺を完全にシロ側の人間と認識したのか、恭志郎さんは拳を振り上げた。
「っ!!」
何故違うと声を張り上げなかったのか分からない。
何故わざわざ痛みを負う選択をしたのか分からない。
でも殴られても仕方ないと心の隅で思った。
だって、シロは俺が好きで、俺はシロが――――…。
俺はとっさに目を瞑り、来るべき衝撃に歯を食いしばった。
「恭志郎」
しかし衝撃は俺の身体の何処にも訪れず、その代わりに吾朗さんが静かに恭志郎さんの名前を呼ぶ声と、ぱしっ という何かを受け止める音、そして
「歯ぁ、食い縛れ」
という台詞と風を切る音が聞こえた。
ガッ!! と鈍い音と共に凄い音が響いて、俺は驚いて目を開けた。
そこには静かな表情をした吾朗さんと、床に倒れている恭志郎さん…。
…え!?何で恭志郎さんが殴られてるんだ!?
「恭志郎、殴った理由は分かるな?」
静かに吾朗さんが囁くと恭志郎さんは顔を歪めて口の端の血を指で擦り取った。
眼鏡は向こうに飛ばされてフレームが歪んで落ちている。
「感情に任せて暴力を振るうのは止めろって何度も言ったよな?その原因が俺ならば俺はお前の前から一生姿を消すぞ、いいか?」
恭志郎さんが慌てたように吾朗さんを見上げる。
「いやなら、止めろ。」
その言葉にこくりと恭志郎さんの首が縦に振られた。
それを見届けた吾朗さんが俺に顔を向けて困った笑みを浮かべた。
「ごめんなぁ、怖かったよな姫さん。
恭志郎が言っちまったけど、俺達を追い出したってグループは名前を削って『Less』っつーグループに変わった。
シロはそのリーダーに祭り上げられてるようなもんさ。…もしかしたら自分が総長なんだって分かってねぇかもな」
親しみを込めた苦笑に強張っていた身体が緩む。
恭志郎さんはともかく、吾朗さんはシロに憎しみを抱いていない事が伝わってきた。
「ご、ろうさんは…怒ってないんですか、シロの事…」
「怒ってはないなぁ。ましてや憎んでも無いし、だからと言って悲しくもない。…申し訳ないだけだな…」
「申し訳ない…?」
「ああ。シロは俺が半ば無理矢理連れて来たようなもんだからなぁ…俺が拾わなかったらLessの総長なんぞにならなくてすんだんだ。
他の連中に追い出されたのも、俺のこの目も俺が招いた事さね。シロを憎むなんざお門違いも良い事だ」
吾朗さんの言葉に後ろの不良さん達が俯いた。その表情には納得の色は見えない。
…そうだろう。
だってシロが望んでないと言えども総長である以上、Lessの人達がした事はシロにも責任がある。
総括せずに放ったままにしていて良い訳が無い。
吾朗さんがふっと目を細めた。
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