「…でもなぁ…やっぱり喧嘩が好きな奴はいるんだよなぁ…生温くて穏やかな日々に文句を言う奴が出て来た」


大きく溜息を付くと目をまた開ける。


「ある日男はある大きな犬を拾ってきました。そいつは男と同じくらい…もしかしたら男よりも…喧嘩が強かった。
いつしかその犬の強さに惹かれた奴らが犬をリーダーにして男に対抗するようになりました。
コイツをリーダーにして、また喧嘩三昧の毎日を送るってね。
男は別に何を言われようとされようと良かった。でも喧嘩をするのは止めろって言ったら…大きな抗争になっちまったんだな、これが。
男は抗争でちょっと大き目の怪我をしてね。男を慕って付いて来てくれた奴ら共々溜まり場を追い出された」


肩をちょっと竦めて吾朗さんはおどけてみせた。


「ま、その馬鹿男は俺ってわけさ。ここは二つ目の溜まり場さね」

「馬鹿野郎!!!!」


恭志郎さんが突然怒鳴るとつかつかと吾朗さんに歩み寄った。


「なんでそんなに軽く終わらせる!お前が何を失ったかちゃんと見せてやれ!」


恭志郎さんはそう叫ぶとがっと吾朗さんの顎を掴むと俺の方に向ける。
そして左目に掛っていた前髪を引っ掴んでかき上げた。


「ちょ…っ、こら!」


慌てる吾朗さんの左目は右目とどこか焦点が合っておらず、どこかずれていた。


「こいつの左目は義眼だ!!!」

「…っ!」


色々な想いを押し殺したような呻きで恭志郎さんが苦々しげに吐いた。
突然の事実に思わず息を呑んでしまう。


「俺達を追い出したアイツらは名前を変えて好き勝手やりはじめた…っ
グループ同士の喧嘩でこいつは左目を失ったんだ!アイツの所為で!それが右目にも支障をきたして…!

俺は…っ絶対にシロを許さねぇ…!!!!」



息が、心臓が止まると思った。





吾朗さんの話が急に俺の中で色々な事と繋がり始める。

大きな犬を拾った…その大きな犬というのはシロの事なんだ。
吾朗さん達を追い出したグループというのが今の『Less』に違いない。

ぶわりと毛穴から汗が噴き出して来た。

さっきなんて言った?この人達は今から喧嘩をするって…誰と…?それは…。

恭志郎さんの怒りに燃える瞳が俺に突き刺さる。


「こいつにまかせていたら遠回り過ぎる…っ 単刀直入に聞くぞ、お前はシロに関係しているのか。しているとしたらシロの何だ!」


唇が震える。何時しか泉と話していた時の事にも繋がった。

『――『Less』の話は聞いたことがある。
高校生の集団グループで、暴力沙汰でいろんなやばい事をしているとか
警察に喧嘩売って勝ったとか
どこぞのグループと対立してるとか…――』

この人達はそのLessの…シロのグループと対立しているグループの人達なんだ。そして吾朗さんはその人達のリーダーで…

何故今、俺はこの人達に敵対心を抱いたのだろうか。
吾朗さんの話を聞いた上ではシロ達が悪いと思う。それなのに、シロの敵と分かった瞬間にもやもやとした対抗心が芽生えてしまった。


「さっさと答えろ!」


俺の動揺の仕方と恭志郎さんの態度に不良さん達も俺を胡乱毛な目で見始めた。



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