「シロはのうのうとしてるわけじゃないでしょーが」

「俺から見ればそう見える!」

「…あのなー…とにかく明日姫さんが起きたら『シロ』の事を聞いてみよう、な?
それれから姫さんをどうするかを考える。どーよ?」

「……」


だめだこりゃ。
俺は恭志郎に分からない様に小さく溜息をついた。
仕方がない。これは必殺技を使うか。


「昔の恭志郎みたいだったからさ、姫さん。見捨てておけねーよ」


僅かに恭志郎の肩が動いた。
こういうと恭志郎は揺らぐ。揺らいで最後には首を縦に振るのだ。

嘘では無い。ただ恭志郎の方がもっと荒んでいたけど。

底なしの沼から抜け出そうと伸ばす右手を自分の左手で押さえるような、そんなにっちもさっちも行かない状況を自分で作り上げて途方に暮れていたあの時の恭志郎と同じ背中をしていた。

――…なーんでそういうのばっか俺は見つけちゃうかね。

そんなのを見捨てておけなくて、声を掛けていたら自分の周りには人が集まって来てしまっていた。
それが全ての始まりだと思えば全責任は自分にあるのだろう。


「…あれだね。拾ったら最期まで面倒を見なきゃいけないってことさね」


自嘲気味に笑って小さく呟く。

それが恭志郎の耳に入ったかは分からないが、ぶすっとした声で「コイツが嫌がっても根掘り葉掘り聞くからな…」と応えた。

これは一晩は置いて良いという許可だろう。


「ありがとね」

「ふんっ、その答え次第では半殺しにして直ぐにでも追い出すからなっ」


吐き捨てるように恭志郎はそう言うと、背を向けて去って行ってしまった。






「だーってさ、姫さん、明日は大変よー」


苦笑して昏々と眠る姫さんの頭を撫でた。

拾った猫や犬の面倒は最期まで見ないといけない。
後々その猫が病気持ちだと分かっても。その犬が気性が荒くて誰にでも噛みつくと分かっても。
その覚悟が無ければ拾ってはいけない。

でもどうしても困って鳴いているのを聞くと拾ってしまっていた。

その時に覚悟があったかと問われれば無かったと思う。
でも皆、側に置いている内に何時しかコイツの為なら責任も負うてやろうと思えていた。

自分の背中に後どれだけ空きがあるか分からない。
でも負える分だけ負おう。


「安心しな。姫さんの分くらいは空いてるさー…多分」


そう呟きながら俺は以前拾った、大型犬の事を思った。
今彼は一人でないているのだろうか。

それも俺の責任なのだろうか。
ならば…


「頑張るしかないっしょー」


あー…でもちょっと肩凝った。

囁いたつもりのその言葉は思った以上に大きく響いた。



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