くったりと眠り込んでしまった姫さんを見とどけて、違うソファーにどっかりと座りこむ。
恭志郎がやっぱりかという顔をした。


「薬か?」

「そーよ、即効性」

「相変わらず上手いな」


側にいたが、いつ薬を入れたか分からなかったのだろう。
それに自分も飲んで見せるというアクション付きだったから姫さんもあっさり飲んでくれた。
恭志郎もこの手に引っ掛かった事のある一人で、思い出したのか苦虫を噛んだ顔をしている。


「おい、何考えてんだ。そいつメンバーに入れるつもりか?」


恭志郎が眼鏡を押し上げながら眉を寄せた。
あーあ、そんな顔しなくても。


「んー、俺はきょーしろー一筋だから大丈夫さー」

「なるほど、お前は余程俺にタコ殴りされたいらしいな…」


にぃっと恭志郎が笑った。
黙っていればどこかの学級委員みたいな容姿なくせして、吐く言葉は毒に塗れているし、笑うと片手に血濡れた金属バッドが似合いそうだ。


「うわっ、可愛くない笑顔!どうやったらそんな凶悪に笑えるかおいちゃんにはわかんない!」

「てンめぇ…」

「うそうそ!入れるつもりは無いよ。
まあ姫さんが入りたいって言ったら考えるけど…言わないでしょ、姫さんはきっと。
ただねぇ…その子、姫さんさ、泣きながら謝ってたんだよ…『シロ』に」


『シロ』という言葉に恭志郎の表情が無くなった。


「そのシロはあのシロか」

「んや、そうは言ってないけ「捨てて来い、そいつ」ど…ってちょっとちょっと、落ち着きなさいな」


ぎっと恭志郎は俺を睨んだ。


「拾ったとこに今すぐ捨てて来い!」

「捨てて来いて…あーた、そんな猫や犬みたいなこと言いなさんな」


ふーっふーっと恭志郎の息が荒い。
本当にコイツは『シロ』が嫌いだ。

…まあ半分くらいは俺の所為だけど。


「お前はその『シロ』に関係していると思ったから拾って来たんだろっ」

「んーまぁ、そうだけど」

「なら捨てて来い!お前の勘は当たるんだから捨てて来い!」


ぎりぎりと恭志郎は姫さんの寝顔を睨みつけた。
今にも殴りかかりかねない勢いだ。


「…恭志郎、殴ったら俺がお前を殴るぞ」

「じゃあ俺が殴る前に捨てて来い!」

「…あのねー、本当に落ち着きなさい」


俺は恭志郎を自分の隣に座らせた。
そのまま言い聞かせるように一言一言強めに話す。


「きょーしろーが当てにしてるその勘であの『シロ』絡みだと思ったけど、同じ勘で今姫さんを捨てたら危ないと思ったのよ、俺は」

「…」

「今、『Less』が荒れてるのは知ってるでしょーが。姫さんが何か握ってるかも知んないよ?」

「…でも」

「きょーしろー、シロは悪くないだろうが。俺は元々怒ってないし、お前も許してやれよ」

「……」


子供が拗ねるように恭志郎は無言で俯いた。
不機嫌オーラがばんばん伝わってきて、少し笑える。


「でも俺は…俺はアイツがのうのうと生活してるのが許せない…っ」


ぎりぎりと握られる拳を悲しい気持ちで眺めた。
恭志郎が怒るのは俺の事を思うからだ。だから俺が止めろと言えば恭志郎は止めざるを得ない。
だけどもし反対の立場だったらと考えると、同じ反応をしないと言えない分、強く言えなかった。



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