別に初めての酒では無かったし、男性の良い飲みっぷりにつられて俺も何本か開けてしまった。
泣き疲れた体に酒が回って心地良い。
俺も何本か開けたけど、男はその倍は軽く飲んでいる。
俺がいなかったら全部飲むつもりだったのだろうか…。
「で、姫さんの名前は?」
「うー、俺はひめじゃない…」
「はいはい、で?」
「ましろ」
「それが名前?」
「そ」
「名前まで姫さんみたいなのね」
「そんなことないぃ…」
ばしばしと隣の男の肩を叩く。
何だか思考が上手くまとまらず、ふわふわする。
「酔っ払い姫さん、大丈夫?」
「よっぱらってなんかないっ、それよか、ホームをレスさんの名前はなんてゆーの?」
「俺?俺はねー…そうだなー…『おいちゃん』とでも呼んで」
「おいちゃん?」
「そー、おっさんじゃないの。ここ重要ね」
「へんなのー」
けらけらと笑う俺を『おいちゃん』は優しい目で見て来た。
ぽんぽんと頭を撫でられる。
「うん、やっぱり姫さんは笑ってた方がイイね」
あ、この暖かさに似たのを知ってる。
あれ?俺、なんで泣いてたんだっけ…。
「シロ……」
酔い特有のだるい様な眠気に包まれて俺はおいちゃんの肩に頭を凭れかけ、眠りの沼に落ちていった。
寝てしまった真白を眺めて『おいちゃん』は目を細めた。
なでなでとその頭を撫でると懐から携帯を取り出し、電源を入れる。
さっきの真白の着信履歴なんて目じゃない程の履歴は全部無視してボタン一つ押して、耳に当てた。
「あ、もしもしー?きょーしろーか?俺俺、俺だけどー」
『――――!!!!!!!』
オレオレ詐欺まがいな開口一番に電話の向こうの人物が大声で怒鳴った。
あわてて『おいちゃん』は携帯を耳から離す。
「そんなに怒るなよー…」
『――!!!、―――!!!!!、――!!』
内容までは聞こえないが、相当な音量で怒鳴っているようだ。
時折『馬鹿』だの『死ね』だの雑言が漏れて聞こえる。
「ごめんごめん、でさー俺拾いモノしたからちょっくら迎えに来て?」
『―――!!!!「恭志郎(きょうしろう)」―――…』
真面目な『おいちゃん』の声に電話の相手は静かになった。
そんな聡い所が大好きだなぁと頬を緩ませながら『おいちゃん』は言葉を続ける。
「いや、本当に悪かったと思うからさ、俺を迎えに来てよ」
『―――』
「本当、本当、ごめんって」
『…―――。――、――!!!』
最後に怒鳴られて電話はぶつりと切られた。
でも迎えには来てくれるらしく、『おいちゃん』は良かった良かったと溜息を吐いた。
そして再度真白に目を移して、頭を撫でた。
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