息が切れて、走るのを止めてよろよろと歩いた。
そんなに都会でも無いこの町では街灯がぽつぽつとしかない。
その条件で何本も街灯が固まって光っていると目立つ。
死に場所を探す猫みたいに俺はふらふらそこに歩を進めた。

そこは大き目の公園みたいで、備え付けのベンチに俺はどさりと座りこんだ。
静かだ。


「う…っ」


その静寂の中に嗚咽が響いた。
洩らしてしまうと後から後から引きずられて声が漏れてしまった。
両手で口を覆い、涙は流れるままにする。
大量に涙を零しながら、他人の口を塞ぐように己の口を塞いでいるこの格好は傍からみたらさぞ滑稽だろう。


「う…っ、う…、うう…っ」

「泣くなら声を我慢せず泣けばいいよ、ほら」


突然背後から低い声がしたと思ったら手が俺の口から外された。
息を止めるかの様に強く押し付けていたのに、いとも簡単に外されて、両脇で固定される。
慌てて振り解こうとしたが、物凄い力で固定されて動かない。

けれど押し殺していた涙は突然止まってくれなくて


「う、う…ぁ」

「そうそう、ここら辺に住宅は少ないから思う存分泣くと良いさ」


声に勧められるまま


「う、ああああああああっ、ああっ、うあああああ――――!!!!」


俺はまるで赤子のように泣くしかなかった。


――ごめん、ごめん、シロ、ごめん。傷つけてごめん。嘘吐いてごめん。


何を口走ったかも、そもそもそれが言葉になっているかわからないくらい俺は泣いた。
いつの間にか手は離されていたけど、俺の両手は口を覆わずに溢れる涙を拭っていた。

声も小さくなって来た頃に俺の手を押さえていたが人が前に回り込み、膝をついて俺と顔を合わせる。


「どう?すっきりしたか?」


ぼさぼさの長髪に、ぼさぼさの髭で微笑む男性。


「う…っ、は、い」


長く泣いた所為でしゃくり上げてしまう声をどうにか押さえて頷く。
知らない人の前であんな大声で泣いてしまった事が恥ずかしくて今更ながら顔が熱い。


「そーか、そーか、なら良いんだけどな」


目を細めて俺を見上げるその人は右手に持っていたビニール袋を持ち上げてみせた。


「ま、こんな夜は一緒に飲もうや」





手の中の缶チューハイに目を落しながら俺は小首を傾げた。
なんでこんなことになってんだ?

俺の隣に男性はどっかりと座りこんで何本目か分からない缶を開けて煽っている。


「ん?どうした、姫さん。巨峰は嫌だったか?なんなら柑橘にする?」


全然進まない俺に、男性は別の缶をぶらぶらと見せた。
違う違うと首を振る。


「いや、だって俺未成年…」

「だーいじょうぶ、大丈夫」


がっはがっはと大口開けて男性は笑う。
…何が大丈夫なんだろう。というか、『姫さん』ってなんだ。


「んー?だって綺麗だから『姫さん』」


缶に口をつけながら男が答える。


「なんで思ってる事…」

「口に出てるぞ、姫さん」


謎だらけの人だ。なんで見知らぬ俺なんかと酒を飲んでるんだ?


「あ、の…貴方は誰ですか?」

「俺?俺はねー…ホームをレスした方」


にっと笑って男はそう言った。


「久しぶりの酒なんだよ、付き合ってくれや」




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