「泉…お前、もしかしてさ、シロに俺の居場所教えた…?」


泉の顔が強張るのを見て、少し温もりを持った心がまた冷えていくのを感じた。


「お前、やっぱり、向こうでなんかあったんだ…」


逆光で泉の表情が良く見えない。
でも声から後悔しているのが伝わって来た。


「ご、め…ごめん、本当にごめん!俺が考え無しだったから…!!」


深々と頭を下げる泉が目に映るけれど、脳まで情報が行かない。


「なんで…」

「俺、笹西がこれ以上苦しそうな顔してんの嫌でっ、あの人だったら何か変えられるんじゃないか…って…!
でもあの人帰って来てから「言ったじゃんか、泉」


泉の言葉を途中で切る。

胸で渦巻く色々な感情に圧し潰されそうだ。


「古醐宮に、青葉に立ち向かえる訳じゃないって。
知ってるじゃんか、古醐宮は政治とか、経済にも顔が利くでかい家だって。
俺はこのまんまで良いんだよ」

「笹に…」

「俺は大丈夫だから、ほら、帰って来ただろ、ちゃんと」


そう言って少し笑う俺を痛ましい目で泉が見る。
止めてくれ、そんな目で見るのは。
俺が、俺自身が望んで選んだんだから。その選んだ道が誤っていると突きつけないで欲しい。


「笹西、中に入らないか?中でゆっくり…」

「帰るよ」

「え」

「近くまで来たついでだったから」


そう言って泉家に背を向けて俺は走った。

これ以上泉の顔を見ていたら理不尽な怒りをぶつけてしまいそうだったから。
俺の我がままを聞いてくれて、俺の事を思ってやってくれたんだという事は分かっている。
分かっているが、罵って、泣き喚いてしまいそうになるから俺は走った。


「笹西!」


泉の叫び声が聞こえたけど振り返らない。
手から何か零れ落ちたけど止まらない。

行く先無く俺は走った。







『大丈夫だから』と笹西は言ったが、全く大丈夫そうな顔をして無かった。

自分が間違った判断をしてしまった事が分かった。

俺は判断を下すにはササの事を知らなさ過ぎる。
でも知らないふりをするには知り過ぎている。

もっと話をしようと家に上がるように言ったら笹西は背を向けて走っていった。
足には自信があったが、この暗い時間帯。
おまけに笹西の手から零れ、叩きつけられた携帯に気を取られた隙に笹西を見失ってしまった。


「笹西…」


もちろん返事など無く、呼び声は夜の帳の中に消えて行った。



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