ぶらぶらと当てもなく夜の道を歩く。
街灯だけが光る道で何処に行こうかとぼんやり考えた。

泉の家に行くと言ったけどそんなのはもちろん嘘で―――…あ。


「行けばいいじゃんか、泉ん家」


そう言えば帰った事を連絡していない。
いつもなら帰ったら直ぐにメールなり電話なりして連絡するのだけれど今回はすっかり忘れていた。

携帯の電源は向こうに行っている間はずっと電源を切っている。
ついうっかり届いたメールなんか見たら尚更帰りたくなるから。

ポケットから携帯を取り出して、電源を入れながら泉の家に向かう。
もしかしたら本当に晩御飯をご馳走になれるかもしれない。
泉の優しそうなおばさんを思い浮かべて俺は少し頬を緩めた。
この時間ならありえる。いやもう少し遅くてもあのおばさんなら温めて食べさせてくれそうだ。
荒んでいた心にゆっくり熱が戻って来た。

おばさんの手作りコロッケが良いな、とか思いながら電源の入った携帯に目を落してぎょっとした。
メールの着信数がおかしい。それも全部泉からだ。

泉の家に向かう足を速めて俺はメールの中を見た。


『大丈夫か?』

『何かないか?』

『もし出来たら連絡くれ』


という似たような内容ばかりの短いメールばかり。
いったいどうしたんだ、この一週間は電源を切ってる事は泉は知ってるはずなのに…。

もしかして泉に何か起きたのかと心配になって俺は携帯片手に走り出した。




ピンポーン…


『はーい』


2階建ての普通の家の玄関のボタンを押すと泉の間伸びた声がインターフォンから聴こえた。
その声にこれと言って差し迫ったものを感じず、ほっと一息をついた。


「あのさ、俺、笹西だけど…」

『ササ!?ちょ、ちょっと待ってろ!』


名乗ると、慌てた泉の声とバタンバタン、ドン、ゴスン!と何かに躓き、何かを落す音が聴こえて、ガチャリと玄関のドアが開いた。

少し青ざめている泉の顔を見て、やはり何かあったのだろうかと緩んでいた気を引き締める。


「よ、かった〜…」


ずるずると泉がドアに身体を凭れさせ掛けた。


「俺、もう、心配で心配で…」

「あ、俺の事を心配して慌ててたわけ?」

「あったりまえだろ!ダチなんだし、お前になんかあったんじゃないかと、もう生きた心地がしなくて…」


ふと違和感に気付く。

いつも古醐宮の家に行って帰って来ても泉は此処まで俺を心配しない。
何故今回だけこんなにも心配していたのだろう。

その時、いつもはそんなに鋭くない頭が今まで以上に動いて、全ての事柄を繋げた。
今まで無くて、今回だけあった事。

シロが、来た。

何故、古醐宮の本家の場所を知っていた?
知ってるのは、俺と父さん以外では――…。



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