目の前にシロが立っていて頭が真っ白になった。

コンマ1秒の間に色々な事が頭をよぎる。

――なんでシロが?どうしてここに?どうやってここに入ってきた?

でも一番強かった気持ちは古醐宮の人間で無くて良かったという安堵でもなく、父さんに言われたらという恐怖でもなく、
『シロだけには見られたくなかった』という感情だった。
立ちつくしていたシロの拳に力が入るのが分かった。

――殴られる…っ!!

一瞬目を閉じて身体を強張らせたが、シロが手を上げようとしたのは俺じゃなくて青葉にだった。
押し倒された青葉を見て全身から血の気が引く。

古醐宮の次期当主に手を上げておいて無事に済む訳がない。
それも俺絡みの事となったら青葉は何をするか予想すらつかない。

俺は振り上げられたシロの腕に縋りついて、泣いて乞うた。

これ以上俺に踏み込まないでくれ。

俺自身が嫌われるのは良い、軽蔑されるのは良い。でも俺の事でお前が脅かされるのは堪えれない。
怒りを湛えながら泣きそうな目でシロは『コイツの事好きなのか……?』と聞いた。

――違うよ、何言ってんだよ、好きなんかじゃない。お前を守りたいだけなんだよ。

そう言えたらどれだけ良かっただろうか。
シロの目も必死で否定してくれと語っていた。分かっていた。

…でも、此処で否定したらお前は青葉を殴るんだろう。

それなら俺は肯定するよ。

お前がもう近付かないような、軽蔑するような…好きになる価値なんか無い奴だって事を見せてやるよ。

そう俺は決意した。

もう既に色々な事を失ったんだ。これ以上失ったって別に何も変わりはしない。
口角を上げて、好色そうな表情を作って、まだ足りないとでも言うように青葉の腰に自分の腰を擦り付けた。

青葉の表情がシロに見えないように抱きかかえる。
それでも青葉が驚いている気配が伝わって来た。

ボロが出る前に早くシロをここから離れさせないと。


「――――何しに来たんだよ?邪魔なんだけど」


そう言った瞬間にシロの表情が抜け落ちた。
その余りの変わり様に殴られるかと身構えたが、シロはそのまま背を向け無言で去って行った。

その背中は何も語らず、無機質のような冷たさだけを俺に見せて見えなくなった。


「アレ、誰?」


静かに俺の腕の下から青葉が聞く。


「…俺とつい最近知り合いになった奴」

「ふうん…そんな奴の為に身を挺してまで庇うんだ」


腕の中から青葉は俺を見上げた。
俺はそれに何の表情も返さない。


「俺の事を知ろうとする奴なんていらない。
そんなの突き放してやる…だって俺自身の事を見てる奴なんて青葉しかいないんだろ…?」


無表情のまま話すが内心はとても焦っていた。
とにかくシロなんてどうでも良い存在だという事をアピールして、青葉の心を擽る言葉を口にする。

納得したのか青葉は目を細めて微笑んだ。


「良い子だね白…そうだよ、お前の事を見てるのは俺しかいないんだ…良い子だ…」


俺と同じ所まで堕ちて来たのかい…?

と意味の分からない事を小さく呟いて青葉は俺を押し倒した。



もう、本当にどうでもいい…。

父さんの耳に入らなければ…それで…。



息を荒げて首に唇を落される感覚を感じながら俺は虚ろな目で宙を眺めた。



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