Lessの総長さんの後ろに黒い影が見える。
――あーもう俺死んだな。
目を閉じて覚悟をしていると、首の圧迫が消えた。
どさりと崩れ落ち、その場に蹲る。
「―――げほっ、げっほげほげほっ!!」
嘔吐しそうになる程の咳のを耐えて生理的な涙を零しながら目を開けると、信じられない光景が目に入った。
Lessの総長が正座をして、頭を下げている――――
誰に?俺に!?
「あ゙、あ゙の!?」
掠れた声で驚愕の声を上げると、僅かに震えているような声が返って来た。
「頼む…頼むから教えてくれ…っ!!!!」
表情は分からないが、膝に乗せてある掌が握りしめられ、わなわなと震えている。
それが頭を下げる屈辱からなのか、なんなのかは泉には分からなかった。
「な゙、ごほっ、何でそんなに…」
「今すぐ会いたい…会わなきゃいけない、ましろに、俺は!!」
「…笹西は後2日で帰ってきます。それじゃ駄目っすか…」
「駄目だ…!!!」
胸がざわつく、と総長は言う。
今すぐ会いたい、会って伝えなければいけない。もう、待てない と。
どうにか頭を上げさせようとしたが、その格好のまま動こうとしない。
「…あんたなら…笹西の状況をどうにか出来んのかな…」
そんな総長を見つめて思わずぽつりと呟く。
自分と同じ歳なのにこれだけの気迫を放つこの男に、長い間抱いてきた思いが零れる。
「俺は駄目なんだよ、力が無くて。笹西があんな顔してんのに…っ。協力するしか出来なくて、助けてなんてやれなくて…っ」
何度行くのを止めろと言ったか。
そんな辛い顔をするくらいなら行くなと。
誰かの代わりにされる場所に、お前が嫌いだという青葉さんとかいう人の所になんか。
でもそう言ったら、『でも他にどうしようもないんだ』と笹西は諦めたように笑う。
「あんたなら…笹西を…」
「わからない」
ましろがどんな状況にあるのか俺には分からない、と言う顔は至極真面目なもので
「でも、俺はましろに会いたい」
とはっきり言いきった彼に、泉は条件を出し、それを必ず守る事を約束させて笹西の居場所を教えた。
――勝手な事してごめん、笹西。
でも、俺はもうお前のそんな顔を見たくないんだ… と心の中で謝りながら。
この結果知った時、こんな事になるならば死んでも口を割らなかったのにと後悔することも知らずに。
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