「おい…」

「はいっ」

「…お前じゃない。ミツハル、クニマサ、ヨシカズ」

「「「はい」」」

「…どっか行ってろ」

「ええっシロさん、でも…」

「…行くぞ」

「え、春臣!?」

「いいから、早く」


こんな状態の総長と2人きりにしてもいいのかという心配から柾谷はその場でおろおろとしたが、春臣に引きずられるように扉から出て行った。
それに無言でついていく和彦は扉を閉め間際


「なるべく暴力はやめといた方がいいですよ…」


と抑揚のない声で告げた。


和彦が扉を閉めた瞬間、正座をしていた泉の身体は浮き、フェンスに圧しつけられていた。


「がふっ!」


首にシロの手が喰い込む。


「――――吐け」


そう低い声で言われて洗いざらい喋りたくなったが、唇を噛み締めて耐える。


「ましろは何処に行った――――っ」

「お、俺は知りませんからっ」

「嘘を言うな…殺されたいのか…」


その言葉の響きに泉は真っ青になる。
彼が殺すと宣言すれば本当に自分は殺されるに違いない。いや、殺されはしなくても瀕死の怪我を負うであろうことはありありと分かった。
この男は自分と同じ年なはずなのに、どうしてここまで恐ろしいのだろうか。


「殺されたく、ないけど…っ、俺には、言え、ませんっ」


首を絞められる事で、狭くなった気管から絞り出すように喋る。
血が止まって、頭が熱い。目の奥が圧迫される。


「ササと…笹西と約束したから…っ!!!」





古醐宮と笹西の関係を聞いたのは中学一年の夏の時。
泣きそうな顔で、お前の家に泊まっている事にしてくれと深々と頭を下げた笹西を俺は忘れられない。

『お前を巻き込むのは間違ってると思うけど、でも俺、お前以外に頼める奴思いつかなくて――…っ
ごめん。本当にごめんっ!!』

そして知った。
父親に黙って、父親の代わりになって、母親の面影を求められて、笹西は苦しい思いをしている事を。

初めは親父さんに伝えろって言った。
何度か会った事があるから知っているけど、おっとりした優しそうな人だった。
話をすれば良いと何度も言ったけど、笹西は頑なにそれを拒んだ。
「それだけは絶対に駄目だ」だと言って。

だから俺は一番親しい友達として約束したんだ

笹西の親父さんには絶対に知られないようにすると。
人の口に戸は立てられない、どこから親父さんの耳に入るか分からない。
だから俺は絶対誰にもこの事を言わないと決めた。

そして、笹西を『笹西』として見る事。

それが俺に出来る一番の事だと思ったから。


持ちつ持たれつの関係、いっつも一緒にいるわけじゃない。
むしろ淡白な友情だと思う。
でも、この事に関してだけは俺は何としても笹西の力になってやりたいと思ってる。

だから…。


「殴っても良い。蹴っても良い。でも俺は笹西がどこにいるのか言わない…っ」


俺は目の前のこの恐ろしい存在に喧嘩を売るよ。
見舞いにはちゃんと来てくれ、笹西。

見舞いの品はメロンがいいな ってか、メロン持って来い。



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