突然の事だった。
小学校に上がる頃の年頃に『次期古醐宮の長はお前だよ』と母に言われて、それからという物そういう教育を施されてきた。
でも一族の目は紫白という死んだ女性の才能に向いていて、その目が俺に向けられる事は無かった。

本当は俺が継ぐはずではなかった『古醐宮』の名。
彼女がこの家を出ていった事で、俺の手に入った幸運。一族の目はそう語っていた。

死んでも尊敬され、愛される『紫白』という人が妬ましかった。
『紫白』という人の代用にもされないことが憎かった。

血反吐を吐くほど努力をした。

自分を偽り、『古醐宮』の名前に相応しい好青年の面をつけた。
ようやくその努力が実り、俺を見る目に尊敬が宿り始めた時に彼が現れた。
『紫白』の息子という彼が。

祖父さんが亡き娘の面影を色濃く残した孫を溺愛して、本家に半ば強制的に招いているというのは知っていた。
悪趣味なと思っていたが、一族の集まりにそれを連れてきたのだ。

そこで彼は花を生けさせられた。

生け花について何も教育をされていないと聞いていたし、次期当主は完全に俺だと決まっていたから嘗めていた。

そこに生けられたものは、教育は無くても心惹かれる何かが。『才』があった。
今のままではただの下手な作品だ。だが、磨けば確かに光るであろう。
それは『紫白』の名前を一族に容易に思い出させた。

頭を殴られたようで、恐怖で身体が震えて、そして怒りでどうにかなりそうだった。

なんの努力もなしに『紫白』の代わりになってしまった彼が憎かった。


その日、苛立ちで屋敷内をうろうろとしていたら彼を見つけた。

結わえていた男にしては長い髪を解き、縁側で外を眺める彼は憎しみを一瞬忘れるほど美しかった。
12という幼い顔に似合わない憂いた表情が自分の気持ちを掻きまわす。


『どうしたの?』


気付けばそう聞いていた。
次期当主に相応しい好青年らしく相手を労わるような優しい声で。

――あの時の言葉は本心からか、はたまた装ったのかは俺には分からない。
…もう面をつける事が自然になってしまっていたから。


『…別に…』


こっちに目を向けずに彼は言った。その不躾な態度は憎しみを再び掻きたてた、が


『……だれも俺を見ていない…』


ぽつりと呟かれた小さい声が鼓膜に突き刺さる。
一瞬自分が言ったのかと思った。
それほど俺の気持ちに寄り添うような言葉だった。


『俺は【母さん】じゃないのに……』


そう呟く彼はやはり綺麗だった。俺と同じ『紫白』という人に周りに縛られてる。

…なのに、なんでこんなに綺麗なんだ?


―――俺はこんなに汚れているのに。

訳も分からない衝動に駆られて俺は彼を抱いた。
顔を恐怖で引き攣らせ、泣き叫ぼうとした彼は彼の弱味をちらつかせれば彼は従順な抱き人形となった。

汚してしまいたかった。自分と同じ所まで堕ちてきて欲しかった。

でも何度抱いても彼は汚れない。

回数を重ねるうちに抵抗を止め、諦めた目で行為を受けていても、汚れない。
それが俺を苛立たせる。

早く汚れて、ぼろぼろになればいい。
壊れて、壊れて、俺にみっともなく浅ましく縋ればいい。


そうしたら―――少しは優しくなれるかもしれないのに。



[26/65]
[*prev] [_] [next#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -