天敵 

嫌な相手が来ようが来まいがさんさんと日光を降り注ぐ太陽が恨めしい。
いっそのこと土砂降りにでもなってくれたらいいのに、と俺は嘆息した。

――何をしてるだろうか

足元を這う小さい虫に目を向けたが、それは俺の脳内に伝わらない。
ただ、シロの事を考えていた。

もう接点を持たないだろう。俺も、シロもきっと。
それを寂しいと思うのはあまりに自己中心的で笑える。

――もしかしたらメンツかけてぼこられるかな。

一瞬そう思って、小さく笑い頭を振ってその考えを打ち消す。
シロはそんな奴じゃない事は短時間だけれど側にいてわかった。
でも、例えぼこられても俺は何も言えない。
それだけひどい言い方をしたと思うから。

――あいつなら俺の事受け入れてくれるのかな…。

そんな想いを一瞬でも抱いたのを見透かし、打ち砕くかのように


「やあ、元気そうだね『白』」


俺の嫌いな声が響いた。


歪みそうになる顔を必死に笑顔で中和して俺はその声の方を向く。


「お早いお付きですね……青葉さん」


その声の主は渋めの茶の和服に身にまとい、眉目秀麗と一族の中で謳われるその顔で俺に微笑んだ。


「ああ『白』に会いたくてね」


流石にその言葉は笑顔の仮面の下から歪んだ顔をわずかに引き出させた。
どの口が言うか。
俺の事が嫌いで嫌いで、こんな苦しい目に合わせる癖に。
いや、それとも嫌いだから苦しい思いをさせて楽しんでいるのだろうか。


「あと青葉(せいは)じゃなくて、『あおは』と呼んでくれと言ったじゃないか」


俺と君の仲だろう?
そう言って涼しげな眼を細める彼に俺は胃が痛くなった。
誰だこいつに『青』なんて色つけたの。

古醐宮の一族は名前に色が入る。
祖父は『紅』 母は『紫白』のように。花を扱う事に関係しているらしい。

目の前のこの男は『青』なんて爽やかな色じゃない。『黒』だ。
他の物を呑み込み、染めていく色。


「…次期当主をそんな風にお呼びなんてできません」


こいつは俺の遠縁にあたり、古醐宮の次期当主。

本当は祖父の一人娘の母が継ぐはずだったが、母は婿をとらず嫁に出て行き、後継者となる俺に技を伝えずに他界した。

親権は父さんにあったし、俺の顔を祖父が見る前に次期当主はこいつに決まっていた。

別に悔しくもなんともない。古醐宮の長の座なんて別にいらない。
ただ、何故こいつなのかと今では悔やまれる。



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