朝、ソファーの上で目が覚めた。
瞼が重い…昨日泣き疲れてそのまま寝てしまったからだろう。
溜息をついてシャワーを浴びに行く。
頭を拭きながら鏡を見ると目が腫れていた。それを見てまた溜息が出た。
その日はずっとずるずると負のオーラをまき散らしていて、泉もあまり話しかけて来なかった。
こういう時は放っておくのが一番良いと分かっているからだ。
身近にいるからこそ、こういう風に気を使ってくれる泉のありがたさが身に染みる。
でも、嫌な時に嫌な事は重なるもので。
体育の為に着替えていると、脱いだズボンのポケットでピロピロ携帯音が鳴った。
誰からだろうと表示を見て、項垂れて呻く。
今すぐ地震が起きて天井が降ってくればいいのに、と本気で思った。
「どうした?」
隣で着替えていた泉が流石に声を掛けてくれる。
そんな泉をちらりと横目で見て薄く笑った。
「何でお前は俺と同じ帰宅部なのに、そんな体つきなのかねー…」
体育以外は運動していない、という俺と同じ条件なはずの泉の上半身は綺麗に引き締まっていた。
…いや俺は弛んでるとかじゃないんだけどさ。
「お前は細すぎ、じゃなくて話をそらすな。どうしたんだよ?今日は朝から機嫌悪いだろ」
やっぱり泉相手に話題をずらす事は出来なかったかと小さく笑った。
まあ『この件』についてはいつも泉の手を借りないといけないから、どちらにしても泉には伝えないといけないのだけれど。
「………本家から連絡。来いってさ。だから俺、今日早退するわ」
俺は携帯をぶらぶらと揺らして見せた。泉が顔を歪める。
「『アオハさん』もか?」
「アイツの名前出すのは止めて泉」
「…ごめん」
失態だったと謝る泉に苦虫を噛んだような顔をした。
「ごめん。俺の方こそ八つ当たりだ。今回も1週間くらいかかると思う…。
父さんにはいつもと同じように泉ん家に泊まって勉強だって言っとくから、またよろしく」
「おう。それは任せておけ…お前は大丈夫なのか?」
「ん…学校にも連絡しておくからさ。大丈夫」
「そういう意味じゃないんだけど…俺に出来る事があったら言えよ?」
泉が肩に手を乗せて笑った。
その笑みに微かに笑みを返す。
「ありがと。俺の愚痴聞いてくれるだけで助かるよ。
あと何があっても、父さんだけには本当の事がばれない様にしといて欲しい。
その事を何よりも優先して」
そう言う俺を痛ましいものを見るような目で見る泉の視線をいつも受け流す。
その視線に縋ってしまったらダメだ。
そう言い聞かせる。
「ん…わかった」
「ごめん。ホントにありがとう」
着替え直すと、更衣室のドアに手を掛けた。
ああいつもより荷物が重く感じる。
「ササ」
「ん?」
呼ばれて振り返ると、泉が心配そうな顔をした後、目だけで笑ってくれた。
「ノートとっといてやるから」
「サンキュ」
自分の事を一番知っている親友に感謝しながら手を振る。
「…じゃ、いってきます」
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