「へぇ……でも、すごく…気持ち、い」

「間違ったやり方だと逆に歪ませちゃうからってさ。
その通りだと思うから、これは整体っていうよりもツボを得たマッサージだと思って」


まぁ凄いのだとバキバキいったりするから。
そう言いながら指を1本ずつ引っ張って、終了。
ありがとう、と礼を言って立ちあがったシロは目を丸くした。


「身体が、軽い…」

「一応今日の晩は風呂に入るなよ。明日の朝には入って良いから」


でも汗が気持ち悪いだろうから、と濡れタオルを2枚持って来る。


「シロ、脱げ」


そう言った瞬間、ビシリと音をたててシロは凍りついていた。





上半身裸でシロ自身には前を拭かせて俺は背中を拭く。


「左わき腹、打ち身みたいになってないか?」


昨日手当は一応したが、まだ痛いならシップでも貼っておいた方が良いだろうか。


「……大丈夫」


静かに応えてシロは身体を拭き続ける。


「シロ。お前、首鳴らす癖があるんじゃないか?」

「……ある」


身体を捩じって、なんで分かるのかと目できいてくる。
あ、そうやって目だけで聞いてくるの何だか凄く犬っぽい。なんて思いながら笑って見せた。


「歪みを見ればわかるんだよ。
あと右肩ばっかじゃなくて、左でも鞄をかけた方が良い。…難しいけどな」


苦笑しながら応えると


「……ましろ、格好いい…」

「!!ホントか?!」


嬉しい事を言われた。
母さん似の顔と家の事情で男にしては長い髪で、俺に向けられるのはカワイイとかそんなのだ。
ずば抜けて運動が出来るわけでもない俺は『格好いい』という言葉にちょっとあこがれている。
嬉しくてにこにこしてシロを見ると真っ赤になって前を向いてしまった。

「やっぱり、可愛い……」と呟いた言葉は俺の耳には入らなかった事にしておく。


「……あのさ、ましろ」

「んん?」


拭き終わったタオルを畳み直していると


「…俺が…どうして、怪我したか…」


聞かないんだ?という言葉をシロは口籠って呑み込んだ。
…まあ、十中八九喧嘩だと思うのだが。


「言いたくなかったりするかも知んないだろ?
だから聞かない。ただ、あんまり無茶するなってだけ言っておくよ」


身体は大切にしないと、と苦笑混じりの笑みを向けると、シロは目を見開いていた。
喧嘩なんて不毛だとは思うけど、シロにはシロの考えがあるのだろうし…。


「………………も…ムリ」


畳みながら明日は何が値引きされているだろうかと思っていた俺は、そう囁いたシロに抱きすくめられていた。


「しっ、シロ!!上着ろ!上っ!!」


もちろんシロは上半身裸なわけで…男同士だと言えどなんか恥ずかしい。


「……なんでそんなに優しい?」


耳元で掠れた声でシロが呟く。


「なんでそんなに…。
…俺以外の奴にも、優しい?
…俺以外の奴にも、そんな風に接する?」


まるで耳の中に吹き込むかのように喋る。
その声に背筋が泡立った。


「……俺は…そんなの耐えられない…」


そう言って、シロは俺に―――――キスをした。



あれ、これ、デジャビュ?
唇に熱い物を感じながら俺は的外れな事を思った。

けれども「シロ」と呼ぼうと思って口を開いた瞬間にぬるりと咥内に何かが入り込む。


「…?!」


それは歯列をなぞり、俺の舌を絡めとった……って、これ、舌?!
慌ててシロを押して離れようとしたけれど、びくともしない。
それどころか、舌の動きは荒くなり俺の咥内を犯す。


「ふ…っん、…っ」


口の端から唾液が零れるのがわかる。
シロは下唇を軽く食むと、それを舌で舐めあげた。
舐めあげる舌の熱さと、熱をはらんだ目に背筋が震える。
そして、熱の籠った目でシロは


「…好き。ましろ……俺だけを、見て…」


と俺に告げた。



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