授業も終わり、玄関で靴を履く。
シロはどこで待っているのだろうか。
そもそも授業にちゃんと出ているのかさえ分からない。
そんな事を考えていたら
「お疲れさまっす」
その言葉に振り向くと三塚君が立っていた。
暮れていく夕日に金の髪が反射して綺麗だ。
「あ、三塚君……お疲れ様です」
「その間はなんっすか」
「いや…出会った時の三塚君は夢だったのかと思ってですね…」
白昼夢を見ていたのかと思うほど今の三塚君と最初の方の三塚君は180度違う。
あの笑顔はなんだったんだ。
いや、笑顔を浮かべていてもずいぶん怖かったけど。
「ああ、あれ。
おもいっきし頭にくるとあんな風に気持ちを紛らわさないと、破壊衝動に駆られるんで」
「…では、あの時は怒り狂っていらっしゃったと?」
「そうっすね」
「…『何に』か、聞いてもよろしいでしょうか…」
「あんたに」
「ですよねー…」
すごく泣きたくなった。
「ボスが久しぶりに来たと思ったら、知らん奴に手懐けられていたなんて洒落にもなんねぇ」
でもまあ、あんたに悪気はなかったみたいだからまだ良いけど。とぶつぶつ言いながら下駄箱を開ける三塚君。
…あれ。下駄箱に何が入ってるのかな?
手紙の様に見えるけど?
その白い綺麗な手紙らしき物を―――丸めた!?
俺の前で顔を歪めながらぐしゃぐしゃと丸めた物を近くのゴミ箱に放り投げる。
「み、三塚君、あれ…」
「一つ忠告しておきますけど。
あの人の『大切』になるってのは危険な事だという事忘れない方がいいっすよ」
「え、スルー?!……た、『大切』?」
さらっと一番聞きたい事を流されて、また若干悲しくなる。
ゴミ箱に捨てられてしまった手紙に目をやりながら何が『大切』なんだろう…とこっそり首を捻るが分からない。
「わ、わかりました…」
とりあえず素直に頷いておく。
今考えてもどういう風に大切なのか分からないし、それよりも手紙の方が気になる。
三塚君怖いけど恰好良いもんなぁ…羨ましいぞ、ラブレターなんて。いや、そうと決まった訳じゃないけど、十中八九そうだろ。
くっそぅ、もらった事無いのに…じゃなくて、可愛そうに…勇気を出して書いて入れただろうに…。
「あと」
「はいっ!なんでしょう」
「なんで敬語」
「…目上の人だから…?」
「バカ、あんたの方が年上なんだからタメ口で話したらいい」
そこに突っ込むなら、先輩に『馬鹿』は止めようよ…。なんて口が裂けても言えません。
「え、あ、わかり…った」
「あと」
え、まだ何かあるの。
「名前」
「名前?」
「『三塚君』じゃなくて、『三塚』」
呼び捨てろと?!
「む、ムリムリムリムリ!!絶対ムリ!!」
きゅっと眉を寄せて不機嫌にそうな顔をする三塚君。
ああああ怒らせてしまった…!
「じゃあ『春臣』」
ハードル上がっちゃいましたけど?!
言葉もなくぶんぶんと首を振る。
「じゃあどう呼ぶんっすか」
いらいらと三塚君は俺を睨んだ。
このままじゃ、殺されちゃうかもしれない…!
『三塚君』『三塚』『春臣』以外の呼び方、呼び方…!!
「は…『春臣君』じゃ駄目…?」
「…」
暫く無言の後、しぶしぶと頷いた『春臣君』を見て俺は全身の力を抜いた。
つ、疲れる…。
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