「……良かった…ましろ…ましろ、ましろっ」


ほっとした様に息を吐くとぐりぐりと頭を肩に擦りつけてくるシロ。
言い方は悪いかもしれないけど本当に犬のようだ。
怒られたらしょげ、構ってもらえると喜び、手を離される事を嫌うワンコ。


「はーいはい。
ってか、シロ…そろそろ後ろの方々の目線が痛い…」


三塚君含め、3人の明らか見た目不良さんが唖然としてこっちを見ている。
有りえない物を見るその視線が痛すぎた。


「ボスが…」

「『煉獄のシロ』が…」

「オレ、夢見てんのかな…誰か、殴って」


茫然としているのがありありと伝わってくる。
それなのにシロは全然気にも留めずに、ただ俺だけを見てくるのでどうしようもない。


「ん…ああ…あれは…気にしないでいい」

「気にするわ!」


一喝すると、うー…と唸りながら俺を膝の上から間に移動させ、後ろから包み込むように抱きしめた。
そしてどうでもよさそうな声音で


「…ミツハル、クニマサ、ヨシカズ」


と指さしながら言った。

…シロ、お前全く教える気が無いだろう。


「えっとー右から、ミツハル君に、クニマサ君、ヨシカズ君ってこと?」


――あれ、でも三塚君ってたしか名前…。

三塚君が笑顔が無いバージョンのまま口を開いた。


「違うっすよ…勝手に略さないでください。俺は三塚 春臣です。
…さっきはすんませんでした。本当になにも考えずにボスを拾ったんすね」


なんだか小バカにされたみたいな気持ちがするんだけど…?
それでもあの時の笑みは一体どこへと思うくらい不機嫌そうな顔の三塚君からは不機嫌以外の何も読み取れない。


「えぇっと…どこで俺の疑いが晴れたか聞いて良い?」

「マジ泣きしたとこで」


――な、泣いて良かったかもしれない。

そう思っていると三塚君の後ろから、黒に緑色のメッシュを入れた人が出てきた。


「お、おおおおおオレは国枝 柾谷(くにえだ まさや)っていいます!!!
春臣ぃ…俺は夢を…?」

「見てねぇよ。殴ってやるから目ぇさませ」

「…俺は吉田 和彦(よしだ かずひこ)」


その黒髪に緑メッシュの人の後ろから真っ白な髪の人がぼそりと呟く。

全員分の名前はさっきシロが言った名前とは全然違う物で、首を傾げる。


「みつ、はる………くに、まさ………よし、かず……って、全部名字と名前の略!?」


人の名前になんて失礼なことしてんの!! とシロを見ると素知らぬ顔をしている。
ちょっと!と顔をこっちに向けると、少し不貞腐れているのか目を合わせてくれない。


「…別に、ましろは覚えなくて良い…」


ギュッと腕に力を入れられる。


「……俺の名前だけ、呼んでれば良い…」


そっとそんな言葉を耳元で囁いた。
…誰かこの暴君ワンコを止めて。

その後教えてもらったのだけど、三塚君は1年、吉田君は2年、国枝さんは3年でそれぞれその学年を仕切っているらしい。

昼休みが終わるまでシロは俺を離さず、むしろ昼休みが過ぎても離そうとしなかったのを、一緒に帰る約束をしてようやく離してもらった。
へろへろになって教室に帰り、皆の憐憫のこもった目線を受けながら、泉をぶっ飛ばすのは後にしようと心に決めて俺は机に突っ伏した。



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