俺の怒鳴りに一瞬驚いた顔をした三塚君は「マジで言ってんのかそれ」と唖然と俺の顔を見た。
「アンタは俺らのボスの存在を知らずにあの人に近づいたってのか?」
「だから、近づいてないってば…」
か細く反論するが、全く聞いてもらえない。
「もういい。さっさとついて来い。直接確かめた方がいい」
ぶつぶつと何か呟いていたが、再び腕を掴まれてさっきよりも速い速度で歩かれる。
もう、いっそここで溶けていなくなってしまいたい気持ちになった。
屋上への階段を上がる。
一段一段が重い…もう心境は売り飛ばされる子牛だ。
BGMはドナドナだ。
――何をされるんだろう…というより、何をしたんだ俺?!
思い当たる節が無い…いや…実を言うと、一つだけある。
………俺が「白」というあだ名を持ってる事。
『俺と同じ通り名なんざ図々しいにも程がある!!』ってな感じでミンチにされそうな気がする。
理不尽すぎる気もするけれど、理不尽な事で人を殴るイメージがありすぎる。
てか、そう考えたらそれしか浮かばない!!
これは俺がつけたあだ名じゃないんですと泣いて土下座すれば許してもらえるだろうか。
いやいやもういっその事改名してくるから見逃してほしい。
今すぐにも逃げ帰りたい俺の目の前で無常にも扉は開き、その向こうに居たのは
「ましろ!!!!!」
イメージしていたごついゴリラみたいな『Less』の総長などではなく。
「シロぉ?!」
昨日拾った『シロ』だった。
俺の姿に気付いたシロにすごい速さで駆け寄られ、抱きしめられる。
何が何だか分からずただ腕の中でもがき続けた。
「なっ、なんで、なんでシロが?!」
はっと気づく。
「も、もしかして、お前も『シロ』だから「ボス、連れてきました」…は?」
ボス?
「ボス?」
三塚君の方に顔を向ける。
「ああ、今アンタに抱きついてるのが俺等のボスだ」
「え…え?シ、シロ、お前…『Less』の総長だったのか…?」
震える声で聞くとびくりと身体を震わせ、まるで悪い事が見つかった子供のような顔をして俺を見るシロ。
「…」
「…」
「…そう、なんだな?」
繰り返すと、くしゃりと顔を歪ませ「……ごめん…」と呟いて俺の肩口に顔を埋めた。
「…なんでっ」
俺の責めるような声にもう一度びくりとシロの身体が震える。
おずおずとこちらに向けられた瞳にはまるで捨てられる寸前の犬の様な怯えが映っていた。
「なんでっ、お前が直に迎えに来なかったんだよっ?!」
「………え?」
出会った時に言わなかった事や、総長であることを非難されると思っていたシロは、真白にそう言われて思わず呆けた声を出した。
「お前がっ、お前が、直に来れば、こんな…こんな…」
こんな死にそうな思い、絶対味合わなかったぞ!!
と叫ぶと、張っていた気持ちの糸が緩んで、人の前だというの思わず泣きだしてしまった。
「まっ、ましろ?!」
突然泣き出した真白に驚きながらもシロはその顔に一瞬釘づけになる。
長い睫毛が縁取る澄んだ目からホロホロ涙が零れるのは、まるで絵のように美しいと思った。
「ましろ、ましろ…」
シロは困った顔で頭を撫で続けたが、近くにいた三塚をぎんっと睨み、
「てめぇ…ましろに何した…」
地獄の底から響くような声を出した。
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