腐れ縁の友 


「…疲れた」

「うふふ、お帰りー」


城に疲れ切って帰り、王に報告をした後、親友と呼ぶには少し気が引ける…そう、腐れ縁と言うのがぴったりな友の部屋に向かった。
変人で、変態で、頭が良いコイツは城でかなりの地位を持っているが、何しろ変人なので結構な人から煙たがられている。
コイツが城でのほほんと暮らせているのは偏に変人という言葉で済ませる訳には行かない程の貢献を国にしているからだ。
…まぁ、後は俺と友人関係にあるからとか。


「お疲れの様ですねぇ、隊長サマ」

「次『隊長』と言ったら殴る」

「その鎧着たまま?!ちょっと、分かってるの、その鎧の手の部分鋲ついてるんだよ!そんなので殴られたらボクの顔に傷ついちゃう…!」

「言わなきゃ良いだろうが」


溜息を吐きながら手に持っていた袋をそいつに渡した。
中にはそいつが森で取ってきて欲しいと言った植物やら鉱物やらが入っている。


「あ、ありがとー。…うん、うん、全部あるね。あー良かった」


袋を覗き込み、すぐさま確認した後満面の笑みでこっちを見る。


「助かったよ、これでどうにかボクの首も繋がりそー」

「…また何か怪しい事をしてるのか」

「まっさかぁ!お偉いさんが夜のベッドでビンビンになる薬が欲しいっていうから作ってあげたらちょーっとビンビンになり過ぎて困った事になっちゃったから、その解毒剤をね」

「…」


コイツのちょっとが一体どれくらいなのか考えるだけでも恐ろしい。
こいつは王族お抱え薬師で、変な薬を発明する事を除けばその腕は国一と言っても良いくらいだ。


「なぁんでお偉いさんは媚薬だのなんだのって欲しがるのかしらん。自力で頑張れば良いのにー」

「…それ絶対人の前で言うなよ」


えーなんでーと口を尖らすコイツは容姿もまた国一並みに良い。
白銀の長髪に、細い縁の眼鏡を掛けた金の瞳。
部屋に籠ってばかりでろくに日も浴びず、運動もしないから色ばかりが白く、線も細い。
こいつのこの容姿に一体何人の女性が。…いや、女性ばかりでなく、男までもが騙されて来たのか。
その被害者を考えてまた溜息が出た。


「とりあえず、いつもの。くれ」

「はぁい、200レイになります」

「…お前が注文したの取ってきてやったんだから金は取るな」

「うわぁ、龍騎士の隊長がたかが200レイでそんな事言うの!国民が聞いたら泣くだろうなぁ」

「殴られる準備は出来たか」

「あ、ですよね!取ってきて貰ったんですからお金取っちゃいけませんよね!」


裾がたっぷりと余裕のある服の中から綺麗な小瓶を取り出して笑顔を向ける友人を睨む気力もない。
こいつはこうやっていつも俺をからかう。
それが趣味だと面と向かって言いのけるからもう抗うのも疲れた。
ちなみにたかが200レイというが、200レイあれば普通の国民は1ヵ月余裕に暮らせる。
…まぁ、確かにコイツが作った薬ならそれくらいの値段では足りないくらいなのだが。
小瓶に手を伸ばせば、その腕を掴まれ、腕の部分の鎧を外された。


「何す」

「あーあ、やっぱり酷い怪我!どうして見てもらって来ないのかなぁ」


俺の言葉を無視して覗き込む目線の先には火傷と僅かなかすり傷。
紅龍は火を吐く為、鎧を身に着けていたとしても火傷の怪我は中々避けられない。


「別にこれくらいどうでも無い」

「はいはい強がりはいらないから。消毒しますよー」

「い゙…っ!」


べちょりと腕に乗せられた紫の粘液に目を見開いて痛みを堪える。
何だこれは。紫とか薬じゃないだろう。というより、煙が上がっているんだがおかしくないか。


「あーアレスでも痛がるって相当痛いのね、コレ。なら実用化は無理かぁ…」

「俺で試すなと言っただろう…!!」


痛みに大きくなる声にごめんごめんと謝られ、紫の物を拭われる。


「結構いけると思ったんだけどなぁ。普通の消毒よりも殺菌力が高くて、解毒効果もあるんだよ。
紫龍とか、翠龍とか毒持ってるでしょ?使えなかったかぁ…」


残念そうに呟きながら軟膏を取り出し、ピンセット先の綿に塗りつける友。
コイツは変人で変態で、何人もの奴がこの美貌に騙されてきたが、なんやかんやで国の為に奮闘し、人の為になる事を一番に考える優しい奴なのだ。
それがミュカ=ソネットという男なのだから。


「あ、これも新作なんだけどね」

「止めろ!!」



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