コトバを食べる龍 

耳護飾≪ヴェテーチ≫の注文も終え、駿馬亭の裏口に戻るとマダム・レジエに頼まれた品は既に準備出来ていると言われた。
余りの手際の良さに感嘆を隠せない。マダムの伝手も凄いが、それを活かしきるドミもまた流石彼女の息子と言ったところか。


「全部持って帰る訳じゃないだろう?後で回収するかと思ってまだこっちには運んでないけどどうするんだい?」


嵩張る物が多いため、全てを纏めれば一人で運べる量では無い。
それを見越して店に注文した後まだ回収していない手際の良さから、彼女の頭の回転の速さが窺える。
本当に料亭の女将に収まっているには惜しい人材だ。


「後々こっちの手の者に回収させる。店の名を教えてもらって良いか」

「品物は見せちまっても大丈夫かい?余り人目に付けさせたくないならドミに言って荷台で回収させて、それをそのまま持っていくって方法もあるよ」

「…ならそれを頼めるか」

「あいよ!ドミ、聞いてたかい?荷台はファゲルの爺さんの所のをお借り」

「わかったー!」


奥からドミが叫ぶとまた兎の様に外に飛び出して行く。


「…元気な良い子だな」

「ふふ、悪ガキだけど自慢の息子さ。…さて」


ドン、っと目の前のカウンターに赤く茹で上がったカレーラ海老が乗せられる。


「荷物と一緒に帰った方が良いだろう?ならもう少し時間があるから食べておゆき!」


そう太陽の如き笑顔を浮かべ、更に料理が盛ってある大皿を何枚もカウンターにどかどかと置いていく。
じっくり煮込まれたスープに大胆に盛りつけられたサラダ。緋鶏の丸焼きに蒸したネリファ、ワイン…。
どれも美味しそうだし、マダムの料理の腕は認めているのだが如何せん量が多い。多すぎる。


「いや、そんなには…」
「何言ってんだい、身体使う仕事だろう!それにまだまだ若いんだからこれくらい食べな!」


残したら許さないよ!というマダムに、また帰ったらミュカに胃腸薬を貰わないとな…と苦笑いを口端に浮かべた。




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めのまえのにんげんが うろうろしながら なにかしゃべってきた
こいつきらい うるさい


「ちょっとごめんねぇ、次は魔力計らせてね!よしよしこの首輪は外そうか…」


たいせつなくびわをはずそうとされて かみつこうとする
さわるな これはたいせつなにんげんから もらったたいせつなもの


「わぁあ!噛みつくのは勘弁!」


すぐにてがはなれる


「うぅん…大人しくしてたらお魚あげるよ?あっ肉の方が良いのかなぁ…」


いらない さわるな


「甘い物とかダメかな、龍って食べるの?」


うるさい しらない


「…アレスの事とか、教えてあげようか?」


“あれす”
それがあのたいせつなにんげんの“なまえ”というのは すぐにきづいた
こいつがなんどかよんでいた

あれす

“なまえ”くれた“あしゅる”とよんでくれる たいせつなにんげん


「…え、なんか興味持った?」


しりたい あれすのこと


「え、うそ、本当?」


おしえろ
おしえてくれたら くびわはずすのすこしがまんする


「やっぱり君、人間の言葉理解してるよね?」


りかい?わからない どうでもいい さっさとおしえろ


「うーん…、取りあえず、アレスのことは後で色々教えてあげるから首輪まず外しちゃおうね。計測ちゃっちゃと終わらせよう」


あと? …いやだけどしかたない あとでおしえろ


「ちょっと待っててね、計測器持ってくるから…急に静かになったな…」


にんげんがばたばたとどこかにいく
そのときになにかを たおした
ほそながいそれの なかのえきがこぼれて ひろがる

…いいにおい
すこしだけあまいにおい

ちかづいて あかいそれに したをのばす
のみこんだしゅんかん、頭に色々な物が流れ込んできた。

おどろきに身体を固まらせ、そしてそれが知識というものだと知る。
自分が龍という生き物であり、人間とはどういう生き物であり、そして龍のコトバ。人間のコトバ。他の動物のコトバ。魔力の使いかた。エサの捕まえかた。


「ごめんねー、ハイ、じゃあ測定してみようかーって、うわぁ!試験管倒しちゃって…ぎゃー!染みになる染みになる…!わーん!それに零したの龍の血じゃん!これ高いのにぃ…」


でも血が少しだけだったから、知識も少しだけ。
もっと知りたい。もっと。
ぐるりと見わたせば、書物がこの部屋にはたくさんおいてあることに気づく。
これだけじゃ足りないけれど、すこしはましになるかもしれない。
この世界のこと。人間のこと。だいすきな、アレスのこと。


「また今度買おう…じゃあ計るからジッとしててね――――ってうわぁ!?」


バン!と大きな音をたててこわれた何かに人間があわてている間に、本の山まで走って飛びのる。
この本から知識をえる方法は知ってる。さっき知った知識のなかにあった。
のどを鳴らして、龍のコトバで唱えると、ふわりと本から金いろの帯がのびてくる。
それをかみくだいて、飲みこむたびに一つ新しいことを知る。
でも足りない。まだ、足りない。
なにか人間が大声を出していたけれど、むちゅうになって帯を食べた。



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