「あ、あの、俺、くど「ああ、そのまま」 はい?」


まったく表情を変えないまま男は俺の言葉を遮った。


「軽々しく…名を教えてはいけない」


怒っているような、微笑んでいるような、悲しんでいるような、形容しがたい表情をうっすら浮かべ男は言葉を続ける。


「特に…このような場所では、ね」


私も名乗る気はないから、無礼を気にすることはない と男は目を伏せた。


「ええっと、じゃあなんてお呼びすれば…?」

「…呼ぶ必要が…?」


そんなことを言われると身も蓋もない…。
気まずい沈黙が流れ、俺はおろおろと目を泳がせた。

それを察してか男は少し眉を眇めると ふぅっと煙を吐き、仕方なさげに


「『珠誉(たまほめ)』」

「はい?」

「どうしても呼ぶ必要があったら珠誉と」

「え、あ、はい!」


少し親しくなった気がして、何故だかわからないけれど俺は嬉しくなった。


「雨宿り、でしたか」

「あ、はい。で…あの、もし良かったら何か拭くものを…と思って」


珠誉さんはずぶ濡れの俺を頭のてっぺんからつま先まで見ると小さく溜息をついて


「百舌(もず)」


と誰かを呼んだ。

かさり と音がしてそっちを見ると、奥から珠誉さんとは全く別の色合いを持った少年が出てきた。


「お呼びでしょうか」


ほどいたら肩までくらいの長さの白い髪を後ろで括って、白い甚平を身に着けた歳11、2程に見える少年。


「湯を沸かして、此の方を湯殿へ」


湯殿…ってお風呂?!
少年は金の目をこっちに向けて


「はい」


と頷いた。


「あ、あの、そこまで…!」

「下着まで濡れているのでは?」


有無を言わさずとにかく入れとばかりの態度に俺は頷くしかなかった。





「こちらが湯殿となります」


すっと古びた木製のドアを掌でさしながら百舌と呼ばれた少年は口を開いた。
顔面の筋肉が死滅してしまっているのではないかと思うほど見事な無表情で、タオルはどこにあるとか、服は乾かしておくとか説明してくれている。


「ではごゆるりと」


俺が服を脱いで腰を布で覆うとそれを受け取って、一礼して少年は出て行った。



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