『あーそびーましょ、』
そう勇気を振り絞って口にして、樹の後ろから踏み出した。
少女のおかっぱ髪がさらりと揺れて、こちらに視線が向けられる。
遊ぼう、一緒に。
色んな所に連れて行ってあげる。
色んな物を見せてあげる。
だから一緒に―――…
目をこぼれんばかりに開いた少女は、次の瞬間ぐしゃりと顔を歪め絶叫を、した。
まるで鐘を叩き壊すような、引き裂かれる烏ですらこんな聲はあげないだろうと思うような、鼓膜が破れんばかりの絶叫。
『あ…、え…?』
絶叫の中、聞き取れた単語は「こっちに来ないで」「いや」「化け物」――…。
化け?物?
どうして、この身体は足も手も二本あって、髪もあって、牙や鋭い爪は無いのに。どうして――。
少女は叫び、転び走りながらその場を立ち去った。
それ以降、少女どころかその友人達もこの場に来る事は無く、身をひそめてひっそりと近くまで寄った村で聴いたのは、少女の死だった。
「あの日から高熱を出して寝込んで――あっけなく、だったんだってねぇ…」
「見舞いに一度行ったんだけどね、アンタ見たかい?まるで老婆の様な真っ白な髪になっちまって――…」
「怖や怖や、子供たちは皆化け物が出たっていうあの古寺に近寄らなくなっちまって…」
「何でも今際の譫言では、出た化け物の体中に
――――目ン玉がびっしりついていたって話だよ――」
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