先日二苗さんから皆が人間じゃないとカミングアウトを受けた後、何故か俺は凄い眠気に襲われて眠ってしまった。
でもなんだか懐かしい眠りの落ち方だったというか…。

その後目を覚ましたら家にいて、円に色々と説明をされた。
本当はこんな頭に負担の掛ること話したくねぇんだけど…と顔を歪めながら分かりやすいように話そうとしてくれた円の話はそれでも複雑だった。


『えーっと、じゃあ俺はどうすれば良いのかな…?』


敷布団に座って小首を傾げると円は溜息を吐いた後


『家には俺がいる。バイト先にはあの鬼がいる。問題はそれ以外なんだが…大学の行き帰り等はあの双子の座敷わらしを側に置く事にした。
あの双子に力があるとは100歩どころか1万歩譲っても言えねぇけど、無いよりかはましだろうさ。
何かあったら身を挺してでも兄貴を助けてくれそうだしな。
後は黄門様の印籠持ちだな。他の妖が兄貴に近づいて来たら兄貴の後ろには俺と鬼がいる事を伝えるってだけだが、有効だ。兄貴の口から言うより妖の口から言った方が効果はある。
大学では…これを肌身離さずつけとけ』


そう言って円は俺に黒い小さな袋を渡した。手の平に乗るくらいの巾着袋。
中身を取り出すと小さなお守りが出て来た。
普通のお守りで、お守り特有のスタンダードな形なのだが他と違うのがこれも真っ黒だった。
真っ黒で意味のわからない記号が金糸で縫い付けられている。長い紐が付いていて首からかけれるみたいだ。


『それを首から掛けとけ、いいか忘れるなよ?』


円の真剣な表情に俺も重々しく頷いた。


『それとこれも忘れるな。他の妖と接する時はそれは外しておけ。
あの双子の狐なんか一発で当てられて気分が悪くなるぞ。下手したら消滅だな。…まあ俺はそれでも良いけど』


円の非情とも言える会話を思い出して苦笑を浮かべる。
そんな事を言いながら気に掛けてやっている所が根の優しい円らしかった。



その日から今さっきの様に不思議な人達に話しかけられる様になった。

昨日は帽子を目深に被った男性に帰り道話しかけられた。
途端、傍にいた山茶と風雪が何かしら叫び、手を筒にしてそこから息を吹くと悲しそうに棚引いて消えてしまったが。

円は俺にバイトを止めさせたがっていたけど、自分が学校や俺の力?とかいうのを調べるために家を空けている間、俺を一人きりで家にいさせるのと珠誉さんがいるあの店とどちらが安全か…と悩み抜いた末に俺にバイトを続けて良いとお達しが出た。
むしろ大学から帰ったら迎えに行くまで店にいろとまで言われた。

確かに店にいると大学の帰り道とかで会うよりも頻度は減った。
それでも百舌君や山茶、風雪の目が無い時本当にこっそりと誰かが俺に会いに来た。

フードを被ったおばさんとか…彼女はフードで目が見えず、笑うと歯が真っ黒だった。

小さなお爺さんも来た…彼はニカニカと笑みを始終浮かべる好々爺で、俺に飴玉をくれた。そして時々首を押さえて「伸びるとこだった…」と呟いていたりした。

物凄く美人な女性も来た…彼女は話が盛り上がってばしばし叩いた机に焦げ跡が出来ていた。

俺は楽しいから良いのだけれど、俺の腕を掴んでいる青年は未だ怒っているようだ。


「も、百舌君、怒ってる…?」

「当り前だ!」


くるりと青年は振り返ると俺の頭をがしりと掴んだ。


「いくらお前が楽しかろうと、お前の脳は悲鳴を上げている!お前が気付いていないだけだ!
現にお前はこの店でも時折深く眠るだろうが!我はお前がいくら狂おうと構わん!しかしその事で珠誉様に迷惑が掛るのだ!!」


その言葉に俺は俯く。…円との『約束』を言っているのだろう。それも円から話を聞いた。
珠誉さんには迷惑を掛けてしまったと本当に思っている。
そうだ。俺が壊れてしまったら珠誉さんにこれ以上の迷惑が掛ってしまう。


「そう、だ…ったね。ごめん」


『約束』を無い物にする前に俺が壊れてしまったら駄目なんだ。


「………いや、我も言い過ぎた。すまぬ」


項垂れた俺に気まずそうに青年も…百舌君も謝った。

あの怪我の後、百舌君が人間の姿になると小学校高学年くらいだったのが、円と同じ歳くらいの年齢になっていた。


『本来はこの姿なのだが、我が珠誉様と出会った時の姿を維持したくて好きであの歳の格好をしていた。
今は怪我をしている故、余計な力を使わぬように一番取りやすい年齢の姿をしているだけだ』


怪我が治ったらあの姿に戻ると言っていた。
大きくなった百舌君は鋭い目つきはそのままで更に格好良くなっていた。
髪は長く伸びて、あの虎の名残なのか先だけ黒くなっている。


「珠誉さんはまだ…その、元気が無い?」

「……案ずるな、しばらくすればきっと…」


おず、と百舌君に尋ねると硬い表情で返事が返ってきた。

実はその『約束』から珠誉さんは中々人前に出て来なくなって、出て来ても特に俺は避けられていた。
以前もそんな仲が良かった訳じゃないが避けられてはいなかった。今はあからさまに避けられているのが分かる。

自分の所為だといっても、他人に避けられるのはどんな相手だろうと堪える。

あの紅の瞳に時折映る苦々しげな色を思い出して重い溜息を一つ吐いた。



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