「あーまたやっちゃった、俺」
「嫌なのか?」
「…嫌じゃないけどさ」
またもごもごと善は呟く。
嫌じゃないのに、毎回この行為の後に善はこう言う。
「人間はやっぱり変な生き物だな」
俺は善の身体に腕を巻き付けて抱きしめた。
接する素肌が温かくて、心地良い。
「俺、如月に抱かれる度に何だか無性に罪悪感が…」
「罪悪感?」
むっとする。
何がだ?異形の者を身の内に招く行為がか?
俺が少し不機嫌になったのが分かったのか、善が慌てて手を振る。
「あ、言っとくけど別に如月が鬼だからとかじゃなくて…歳がねぇ」
「歳?」
そう。と善は頷く。
「俺は25、お前は見た目だけだったら15、6…何だか少年を誑かしてるみたいじゃんか」
お前の方がずっと長く生きてるのは分かっているんだけどねぇ、と苦笑をする善を布団の中で抱きしめた。
「なんだそんな事か。なら俺が年上に見えれば良いんだろう?
ならば出来るぞ。今は人間の姿になるのが一杯一杯だから無理だけど、練習すれば必ず」
「え、そうなの?」
まじまじと善が俺の顔を見つめる。
見つめた後、顔を反らして「やっぱいいや」と呟いた。
「?良いのか?」
「うん…如月の見た目で20半ばを想像したらとてつもない事になったから良い…色気で死ねそうだ」
「?そうか、善が良いなら別に良いが…」
善の金の髪を撫でた。
「綺麗だ…」
溜息混じりにそう言うと善が苦笑した。
「お前の方がずっと綺麗だかんね?」
「この色、太陽の色…こんな色の髪の人間は他にいるのか?」
「…さあねぇ。
見た事は無いけど、俺がこんな色になったのは血筋に特異な力を持っている奴がいるからっていうから…探してみたらいるんじゃない?」
「なんだ。お前の里にはいないのか?その血筋の奴は」
「お袋が腹の中に俺をいれたまま旅して辿りついた縁の無い土地だからねぇ…いないよ」
「そうなのか…」
善が語ってくれたその言葉を俺は髪を撫でながら聞き流していた。
その時私は、側に人の子が、善がいるという幸せの温かい泥濘にどっぷりと浸かっていて、この心地良さがずっと続くものだと思っていた。
…そう過信していた。
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