「お前ら、兄貴に真名を教えたな…?」


無言で双子は震えあがった。


「真名って?」

「あ〜に〜きぃいぃいい…」


質問をしたら、がっと頭を掴まれ、拳でこめかみをごりごりと擦られた。


「あだだだだだだだ!!!!!」

「ふざけんな!何してんだ、アンタ!これじゃ従属の契約は俺じゃ消せねぇじゃねぇか!」

「い、言ってる意味が、いたい痛い!!」

「ちっ、隙さえあればこんな契約さっさと破棄してやろうと、あだっ!!」


ぶつぶつと呟いている円が苦痛を訴える声をあげた。

何事だろうと円を見上げると涙目で下を睨みつけている。
一緒に下を見ると右足には緑の狐が、左足には橙の狐が噛みついていた。
流石にデニム生地を貫通はしていないけど、ぎりぎりと喰い込んでいてかなり痛そうだ。


『先ほどから黙って見ていればヒサ殿に向かってなんという扱い!許すまじ…!!』

『我らの主ぞ、傷つけるのは許さぬ…!!』


ぐるぐると狼のように唸り、歯に力を込めようとする双子を見降ろす円の目は冴え冴えとしていた。
この表情の円はやばい。慌てて膝をついて狐達の鼻面に手を向けた。


「ストップ!俺は大丈夫、大丈夫だからとりあえず噛みつくのは止めようか!痛いから!」

『しかしヒサ…』

『この者の態度は余りに…』

「よしよし、どうどう」


ぶーぶーと文句を言う二匹を俺は撫でてあやす。


「円も俺を思って言ってくれてるから、ね?これ以上やると二人が怒られるから。
それに気持ちは嬉しいけど、相手を傷つけたらやっぱり駄目だよ」

『…我らの事を考えて…!』

『何という慈悲の心でしょうか…!』


目をうるうるさせて二匹は尾を震わせた。
感動して打ち震える二人に最後まで伝わったか微妙だ。


「う、うーん…聞いてるかな?」

『駄目でやんしょ』


けらけらと楽しげな声で二苗さんは笑った。
振り向くと目を光らせてにんまりと笑って見せる。


『【座敷わらし】は特に人の子が好きでやんす。
しかし家憑き――ああ、これと決めた人の子の家に住む事でやんすがね、その『家憑き』になったらその人の子をのみを愛でるのでやんすよ。
元は多くの人の子を広く愛でる存在でやんすから、それが一人、もしくは一家に集中すれば深い愛情になるのは火を見るよりも明らか。
まあそれが彼らの性なんでやんすけどね』


――深い愛情は歪みやすいでやんすからお気をつけくだせえ…。

小さく二苗さんが呟いた言葉は聞き取りにくくて、俺は良く分からなかったが、円には聞こえたみたいだ。
眉根を寄せて怖い顔していた。

二苗さんは笑みを崩さずに尻尾を振っている。


『怒ってばかりの弟殿に変わってあっしがご説明いたしやしょうかね』



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