「もう絶対許さねぇ…」


這うような低い声で罵りながら手をわきわきと動かす円。
今なら人を殺しかねない程の覇気を醸し出している。


「ま、円、落ち着いて…」

「兄貴が落ち着き過ぎなんだよ!ちったぁ『拒否』するってことを覚えろ!!」

「は、はい…」

「ちょっとこっち来い!」


肩をがしりと掴まれて二苗さんだという猫の前に引きずられる。


「これは『二又』!楽しい事が大好きでふらふらしてる化け猫だ」

『どーも〜』


猫が目を細める。
これだけ近づいて見ると左右の目の色が違う事に気付いた。
右が金、左が銀の光を放っている。


「これは猫又だからですか?」

『これ?ああ、目でやんすか?いいえ〜生まれつきでやんすよ。
普通の猫でもいるでやんしょ?左右の目の色が違う種が。それと同じでやんす』

「綺麗ですねー…」


ほのぼのと会話をしていたら後頭部を叩かれた。


「何のほほんとしてんだ!
…こいつらは自分の楽しみの為なら何でもする。それを忘れるな」


襟首を掴まれて次に引きずられたのは双子の前。


「おいクソガキ…」


円に唸るように低く声を掛けられてびくりと双子が震えた。


「元の姿に戻れ」

「な!」

「無礼な!」

「コイツの側にいたいならさっさとしろ」


コイツと言われて襟首を揺らされた。
全く兄という扱いをしない弟に溜息が出る。


「う、足元を見おって…!」

「し、しかし…」


おずおずと上目遣いで見られて思わず微笑みが零れた。


「大丈夫、俺なら山茶と風雪がどんな姿でも平気だから」


そう言うと双子は安心したように頬を緩め、額をとんとんと二、三度叩いて目を閉じた。
次の瞬間そこには緑と橙の狐がいた。
普通の狐より2回りほど大きく、そして尻尾が三本ついている。

…え、何この子ら普通に可愛い。


「…三尾か…名前は」

『…右近』

『…左近』


橙の狐が【右近】と、緑の狐が【左近】とぶすくれて名乗った。


「あれ?」


山茶と風雪では無かったのだろうか。


「ああ?」


小首を傾げると、円は怪訝そうに俺の顔を見た。
そして何も言って無いのに悪鬼の如く恐ろしい顔をして双子を睨め付けた。



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