『我らヒトならざるモノは陰でひっそり生きておりやす。
陰は寂しい、冷たい所でやんす。仲間もいるようでいない。
ですから暖かい、優しい人の子に惹かれてしまう性をもっているんでやんすよ』


ふにゃっと二苗は笑った。
それはまるで照れているようにも見えたし、悲しんでいるようにも見えた。


『もちろん人の子が皆優しいとは限りやせん。その事は重々承知しておりやす。
でも一度でも優しくされてしまうとその暖かさに縋りたくなってしまうんでやんす。
しかしそれが度過ぎ、縋る行為が歪んでしまったモノを我らは「堕ちたモノ」と呼びやす』

「堕ちた…」

「具体的には人間を喰うって事だ」

「食べる…」

『人の子の優しさに飢え、求め、その結果優しさにではなく人の子に飢えが向かった愚かなモノ。
同情の価値はありやせん。そこまで自堕落してしまったのはそのモノの責任でやんす』


ぺしんぺしんと棚を二苗は叩いている。


『先ほどの鵺が良い例でやんす。ざっとですがこれがあっしらの質でやんす。
細かく言うと強い力を持ってるとかで順位が決まってるとかありやすけど、それは知らなくてもいいでやんしょ』


ところで。
二苗は楽しそうに円に声を掛けた。


『久殿は後ろの双子の狐と契約を結びになった御様子でやんすが、弟殿はご存じでやんすか?』

「はぁ!?」


それを聞いて円が悪鬼の如く物凄い恐ろしい顔で俺を見た。


「なんだそりゃ!?」

「なんだ…ってな、何が?」

「ちょ、兄貴ホントふざけんなよ!ちょっとそのガキ共こっちに寄こせ!!」

「「嫌だ」」


怒髪天を衝かんばかりの様子の円に恐れて幹人の背に隠れながら、山茶と風雪は声をそろえて拒絶した。


「お前らに聞いてねぇ!!!ちっ、本当に狐じゃねぇか!!」

「狐ではありません」

「座敷わらしだ」

『狐の座敷わらしでやんすよね〜』

「五月蠅い」

「下位の猫又のくせして我らを馬鹿にした口をきくなど身の程を知ったらどうですか」

『自分だって狐狗狸(こっくり)の内に入る下位の獣のくせに何を言ってるでやんすか〜。
後言っておきやすけど、あっしの方が年上でやんすからね?』

「狐と狗は下位と申すが、皆がそうではない!
ただ他のモノ達と違って下位から上位まで分布しているだけだ!」

「確かに我らは上位ではありませんが、貴方のように下位ではありません。
というか、その狐狗狸の内にも含まれない畜生のくせに何を偉そうに!!」


ぎりぎりと歯を鳴らして怒る双子。
そんな様でさえ可愛いと思える幹人は自覚している以上にこの双子を気に入ってるようだ。


「へえ、狐なんだ?」


そうなんだ〜と呟くと慌てたように双子が手に縋りついた。


「き、狐はお嫌いですかっ!?」

「確かに我らは狐であるが、嫌いなら獣の姿にはならぬ故…!」

「「捨てないでくれ(ください)!!」」

「す、捨てるなんて…」

「俺は捨てた方がいいと思うけどな」


泣き出しそうな顔で懇願する双子に苦笑する幹人を円はばっさりと切った。
余りの言いように幹人の顔が引き攣る。


「…ま、円…」

「この血も涙もない輩め!!」

「ヒサ殿を見習ったらどうですかっ!!」

「なんだとこのクソガキ!!!!」


幹人の背中の後ろから円を非難してくる座敷わらしに声を荒げると、双子の頭が貝殻の中に引っ込むヤドカリのように幹人の背中に隠れた。



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