「だろ!?もう俺心配で心配で胃に穴空くかと思った事もあって…じゃなくて、その忘れてしまったのに連動するかのように兄貴の力も弱くなったんだよ」


正しくは弱くなったというよりも、奥底に身を潜めてしまったと表現した方がいいかもしれない。
もちろん力は感じられる。
しかし以前のように強くなく、残り香のようにしか感じられない。

こんな力に気付くのは余程近くで探らないと分からないだろう。
だから力の強い自分が側にいれば余程の事は起きないと思われた。


「実際起きなくて、ここ最近は時々忘れてた。それがこの有様だ」


円は舌打ちをすると立ちあがった。


「ああ、兄貴が狙われやすい質だってのに安心して気を払うのを忘れてたよ!
くっそ、腹が立つ。親父とお袋が海外に行ってんのもそのためだってのに何で忘れて――…」

「円?」


苛立たしげに髪を掻き毟っていた円の手がピタリと止まる。


「どうしてここに居るの?」


振り向くと幹人が立っていた。


「あ、にき…って何お前のほほんとしとんじゃボケぇ!!!!!!」

「へぶしっ」


パシーンっ! と円の手の平が幹人の顔面を直撃する。
その勢いに幹人の両手を握っていた山茶と風雪は恐れ戦いて縮こまった。


「ええ!?何で!?痛いよ!!」

「お前もしっかりしろ!何が『新しいバイト先の人は優しいよ』だ!そもそも人じゃねぇじゃねぇかっ!!!」

「え?人じゃない?」

「見て見ろ!赤い目とか、白い髪に金の目とかおかしいと思わなかったのか!!」

「え、あ、いや…有りなんじゃないかなぁ…と…」

「無しだ!!!言っただろうが、なんでもかんでも『受け入れるな』って!!」

『ああ、そういう事でやんすか』


ばっと円が後ろを振り向くと茶色の猫が棚の隙間で目を光らせていた。


「誰だてめぇ…ちっ、どいつもこいつもぞろぞろと…」

『あっしは二苗と言いやす。どうぞよしなに…。
何、危害を加えようと思っておりやせん。ただの非力な二又でやんす』


二本の尻尾をゆらりと揺らして円に見せつける。


『それにしても久殿が巫女とは!これで理解しやした』


楽しげに猫又は話を続ける。


『珠誉殿、百舌殿と接しても眉一つ動かさないその態度。
結界を片っ端から解いてゆくその才。全て受邪のなせる技…巫女であるからでやんすね?
「受け入れる」…とても心地の良い響きでやんすねぇ…。
確かにヒトならざるモノであるあっしらには甘美な言葉でやんす』


久殿。
二又の尾をもつ茶色の猫に呼ばれて幹人は返事を返した。


『あっしが二苗と言って驚かないのでやんすか?』

「え…ええ、まあ、なんとなくそうなんだろうなと」

『受け入れてしまっている?』

「はい」


光る眼がにぃっと細められた。


『そうでやんすか…。
久殿、今からお話するのは全て真。偽りはありやせん。話しても「よろしいですか?」』

「はい」

「おいごら、何を話すつもりだクソ猫…」

『あっしらの事でやんすよ。あっしは久殿にお伺いを立てやした、そして許可を頂きやした。貴方は止められやせん』

「ちっ小賢しい…」


でも止めないのは、「真を話す」と猫が言ったからだ。
妖達はこういう所は何故かしっかりしていると知っているので円は止めない。


『久殿、あっしらは人ではありやせん。
あっしも、百舌殿も、後ろにいる双子の子も…珠誉殿も』



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