『弟…』

目の前の男をまじまじと見る。
金のような色の髪、鋭い目、体つき、どれをとってもあの久と似ても似つかない。
それに兄より背も高い気がする。


「似てねぇって言いたいんだろ」


そんな百舌の目に言いたい事を察したのかぶすっとした顔をする円。


「いくら似てなかろうと俺達はれっきとした血の繋がった兄弟だ。んでもって俺は察しの通り【巫女】だ」

『…ん?』

「なんだ」

『弟なのに【巫女】なのか』


巫女は長子しかならないと聞いた事がある。


「ああ、それは知ってたのか。
アンタ等の【巫女】についての知識は所々欠けてるみたいだから知らないかと思ってた。
そうだよ、俺は弟なのに巫女だ。そして兄貴も――巫女だ」

『!? しかし久からはお前のような破邪の力は感じられ――…』

「当り前だ。兄貴は『破邪』の力を持ってない」

『ならばそれは巫女とは言わないではないかっ』

「あ゙ーもう、面倒くせぇな。今から全部説明してやるから最後まで聞いとけ」


がしがしとパサついた髪を掻きむしって男は話し始めた。






久遠家は【巫女】を長年輩出する一族だ。
今では力を持っていれば男でもなれるが、昔は長女だけがなれたため巫『女』の文字を使う。
巫女は邪を滅し、魔を除ける存在と知られている。

しかし、


「ただ妖を滅する存在だったら、俺達一族はあっという間に怖れを抱いたアンタ等の仲間に根絶やしにされてるよ」


巫女は自分達の力を決して非道な殺戮には使わない事を家訓とした。


「それを破れば巫女は一族の手によって処罰される」


しかしそれだけではなく、巫女にはヒトならざるモノと共存していく力を持っていた。


「それが『破邪』と逆の『受邪』だ」


ヒトならざるモノを拒み、滅するのが『破邪』だとしたら
ヒトならざるモノを許し、受け入れるのが『受邪』。


「で、兄貴は『受邪』の力しか持ってない」

『!』


生まれた時両親は絶望したそうだ。

受邪の力は文字の通り「邪を受け入れる」。
害の無いヒトならざるモノにはそれは癒しになる。
しかし堕ちたヒトならざるモノには美味そうにしか映らない。

そのために『破邪』があり、『破邪』のために『受邪』がある。
どちらか片方でもいけない力。

世間には「七つまでは神のうち」という言葉がある。
その言葉の通り「七つ」までは神の眷属である為に神の庇護があり、喰われる事は無い。
しかし「七つ」を過ぎた瞬間、あっという間に喰われてしまうだろう。
どんなに手立てを尽くそうと、それは防げない。

両親は泣きながら暮らし、どうにかして生きる術は無いかと探した。
そんな時、兄が生まれてから4年後、弟が生まれた。
『受邪』しか持って生れなかった兄を補うかのように強大な『破邪』の力を持って。

両親は術はこの子しかないと思った。
いつも一緒に行動させ、絶対に兄を一人にしないように弟に言い聞かせた。

成長するに連れて弟の力も大きくなっていった。


「今だったら俺が身につけてた物を身につけさせとけば、そこんじょそこらの妖は手を出せないくらいの力を持ってる」


昔は大変だった。

自分の力が強いという事は対になってる兄の力も馬鹿みたいに強いのだ。
いくら一緒でも、場所が場所だと害をなすまでではなくても「何か」ひっついて来てしまった。
墓地の前を通ってしまって、バーコード禿げの半分透けたおっさんが鼻息荒く追いかけて来た時は泣きながら兄を引っ張って逃げた。


『しかし、久はそんな事を微塵も言って――…』

「あー…今の兄貴は『全部忘れてる』んだよ」

『は?』


「神のうち」を過ぎる八つの誕生日が間近で一族全員がそわそわしている時、あのアホ兄貴は階段から落ちた。
怪我とか無く、大事にはならなかったが、その衝撃であろうことか『受邪』の力に関しての事だけまるっと忘れてしまったのだ。


「んでもってまるでバ○田大学を出たなんとかのパパのように間抜けちまって…」


両手で顔を覆い嘆く円。


「昔はこんなんじゃなかったんだ。
あんなに注意力散漫というか…おっちょこちょいというか…目を離せないというか…」

『ああ、分かる分かる』


白虎姿の百舌も今の状況を忘れて思わず頷いた。



[23/52]
[*prev] [_] [next#]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -